「悪性のエンターテイメントたる所以は伝わってきた」甲子園 フィールド・オブ・ドリームス わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
悪性のエンターテイメントたる所以は伝わってきた
僕が聴いているラジオ番組「東京ポッド許可局」で定義された"悪性のエンターテイメント"。残酷なものを見て楽しみたいという感情。たとえば、AKB総選挙は少女たちを順位付けして喜び悲しむ様を大々的に見せるとともに、それが自らの実力ではなく他者からの資本によるものということで、僕にとってはその非情さが面白いと思う一方、あんなの人身売買でしょ?と極端に忌み嫌う人がいるのも事実で、その気持ちもわかる。
話を戻すと、甲子園も悪性のエンターテイメントだと思ってて、そこには愛のない正論が飛び交ってる(正論ということは強調したい)。たとえば、『熱中症にご注意下さい 運動は控えてください』というNHKのテロップの中で屋外球場で戦う球児たち。球数制限の問題もそう。指導者の働き方改革の問題もそう。古き良きしきたりと、それをアップデートしなければという想いもそう。この映画には、甲子園が持つ面白さと宗教のようにその魅力にとりつかれる様が描かれている。
さらに、2018年に密着していることで、この映画の中で描かれている1年生の夏は今年思わぬ形で奪われてしまったのか…と思うと苦しさも感じられる。良い映像作品でした。
横浜隼人高校と花巻東高校の監督に主にスポットライトがあたっていました。横浜隼人がこんなにも早く負けてしまうとは製作陣も思ってなかった誤算だろうなと思いながら…(笑)この監督の教育観が自分とは合わなかったです。「野球というのは球技の中でも人が点になる珍しいスポーツ。だから人と人との関係が大事。」と非常に立派なことを言ったあとに、3塁コーチャー的な役回りをしていたとある球児が大声で指示を出せなかったことに対して指導する。理屈はわかる。ただ、その球児は監督に対して食い気味に「いいえ!」「いいえ!」「はい!」「あざした!」しか言えないんです。これがコミュニケーションを大事にしてる監督が理想とする関係作りなのか?と思わざるを得なかった。キツくあたるなと言っているんじゃなくて、あの球児には『黙って聴く』という選択肢がない。監督の求める返事を誘導尋問かのように見せられているだけ。最終的に「これじゃダメだったかな…」的なことを監督が言うシーンがあったのでまだ救いはあるけど、こういうところが前時代的だなとは思ってしまう。
あと、僕が求めるドキュメンタリー映画の大事なところは"事実9割監督からの問題提起1割"なんだけど、監督がこの映画を通して何を伝えたかったのかが分からないまま終わってしまった感じ。ところどころ挟まれる満員電車のカットやら働き方改革のナレーションやら、もう少し上手く使えなかったものかなと思いました。
僕は悪性だと分かりきってても、当事者じゃないから楽しんじゃえというスタンスなので、高校野球の魅力はちゃんと伝わってくる作品で、楽しむことができました。花巻東の監督の植木にまつわるエピソードや「大谷を僕が育てたとは絶対に言えない」というエピソードには深く納得させられました。映画じゃなくてテレビでも良いかなとは思いましたが、観て良かったです。