「人間の持つ本能の美しさ」アーニャは、きっと来る KZKさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の持つ本能の美しさ
東京国際映画祭にて鑑賞。映画祭で上映するに相応しい非常に優しく美しい作品であった。
ユダヤ人狩をしているナチス支配下にあるフランスの田舎村に住む主人公のジョー。彼がひょんな出会いから森でユダヤ人のベンジャミンと出会う。
ジョーは頭ではユダヤ人と接触を持つ事は禁じられてる事は分かっているが、父親と離れ離れに暮らしていることもあってか父親くらいの年齢のベンジャミンに親近感を抱き、そして彼の優しさに惹かれて関係を築いていく。そして、その後彼のまだ幼い姪や甥らとも出会う。少年少女達とまた同じように接する。
一方村を支配するナチス兵にもユダヤ人の存在をバレないように警戒はするものの、ナチス兵の中尉の優しさ、人間味に惹かれ彼とも親しい関係を築く。決してジョーは中尉の気を逸らすのが目的で関係を築いたわけではない。そこにももしかしたら父親の存在が重なったかもしれないが、一人の友人として親しい関係を築いてたように見えた。これこそ人間の本能であろう。
中尉もまた自分らがやっている事は正しいのか胸を苦しませる。ジョーとユダヤ人が密かに関係を築いてる事は早い内に察してはいた。彼らを直接的に助ける事はできなかったが中尉にできる限りのサポートをし正義を通していたようにも見えた。これもまた人間の本能であろう。
ベンジャミンの姪と甥の多くは国を脱出することができた。残念ながらベンジャミンと一人の姪は捕まってしまう。ナチス兵による村の支配から解放される際にはジョーは友を一人失った。
ベンジャミンが捕まった後に離れ離れになりずっと再会することを信じてきた娘アーニャが村に辿り着きジョー達と合流するところで話は終わる。
全てがハッピーに終わる事はできなかった。この辺りは非常に現実味がある展開ではあったが、この作品はナチス兵を必要以上に悪く描く事もなく比較的優しく見やすい作品に思えた。
ジョーや中尉、そしてベンジャミンらユダヤ人。互いが互いを公に認め合う事、助け合う事ができない時代の中彼らなりにできる精一杯の正義がこの作品では描かれており、それが人間の本能であると共にその本能の美しさを非常に堪能する事ができた。
人間は時に悪魔となる事もある。それが時代や環境だけのせいにするのは違うと思うが、そういった背景が悪魔と化す事も多いだろう。
本来人間の本質、本能というのはジョー達のように美しいものである。そうであると信じたい。
この時代に比べた今はいくらか自由な社会ではあるが、まだまだ社会には誤ったルールやモラルは多く存在する。
人間が持っている美しい本能が誤った社会のルール、モラルに縛られる事なく、存分に表現できる社会をこれからも更に目指して行き優しい社会、世界をつくる事の大切さを改めて感じさせてもらえた。