劇場公開日 2021年3月26日

「生きることの原点」ノマドランド みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 生きることの原点

2022年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これ程素晴らしい作品だとは思わなかった。アメリカ・アカデミー賞作品賞に相応しい傑作である。題名のノマドとは遊牧民のことであり、本作は、夫を失って現代のノマド=車上生活者になった女性が懸命に生きる姿を描いている。ロードムービーではあるが、ドキュメンタリーでもフィクションでもない、新しいジャンルの作品である。冒頭からラストまで、哀切感溢れる音楽と大自然の景観が効果的に挿入され、心に響く、心に深く染み渡るシーンが多く目が潤みっぱなしだった。

本作の主人公は、アメリカのネバダ州で暮らす60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)。彼女は、リーマックショックで夫を失い、キャンピングカーで車上生活をしながら、季節労働者として転々と職を変えて、過酷な毎日を懸命に生きていく・・・。

主人公役のフランシス・マクド―マンドの演技が本作の作風を決定している。彼女を車上生活という環境に放り込んで生活させて撮ったような嘘のないリアルな演技である。主人公を含め仲間達の境遇については、敢えて劇的な再現ドラマにせず、モノローグを使って説明している。淡々とした台詞の中に、様々な感情が織り込まれていて胸を打つ。

主人公はキャンピングカーで全米を移動するのだが、カメラは車の後ろを追っていく。車の前方を撮ることはない。あくまで主人公に寄り添っていくという作り手の姿勢を端的に現わしている。

主人公が圧倒的景観のアメリカの大自然の中に溶け込んでいるシーンは、自然と人間の一体化、自然とともにある車上生活者の生き様を表現している。

車上生活者達は物質的余裕のない生活をして生きている。辛いことが多い、孤独な生き方であるが、彼らの生き方は生きることの原点である。起伏の少ないストーリー展開にも関わらず本作を感動的作品に昇華させているのは、過酷な環境の中で、生きることの喜怒哀楽、醍醐味を感じながら、毎日を懸命に、真摯に生きている彼らの姿が美しいからである。

みかずき