劇場公開日 2021年3月26日

「庭から見える景色が一番落ち着く」ノマドランド フリントさんの映画レビュー(感想・評価)

庭から見える景色が一番落ち着く

2021年4月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

旅に出る人々の話

素晴らしい作品でした。
人間は最後にどこに行きつくのか、人生の目的地とは?
自分にも遠くない未来に待ち受けているであろう老後の姿が胸を突く。
自由と孤独と不安で一杯、よくよく考えたら今もそんな感じだ。
家族はいるけれど、自分が死ぬ時はどんな感じだろう、泣いてくれる人いるかな。
なんて思いましたよ。しんみりしました。

希望の物語なのかはまだ分からないけれど強い映画だと思った。

大自然は強い、容赦なしだけれど人間も負けじと強い。
大自然は美しい、人間も同じくらい美しい。

アメリカの国土ってこんなにも美しかったんですね、忘れてました。
そりゃネイティブアメリカンの方々も自然を崇めるよね、景色が神々しい。
それを奪った人々の子孫が大自然に癒されてるんだから皮肉なものです。
お金の奴隷になった現代人に本来の大事なものは何かを気づかせてくれるような内容でした。

主演のフランシス・マクドーマンドは圧巻の演技でしたね。
表情も仕草もドキュメンタリで実在の人物かと思えるほどの存在感と演技力です。
顔のシワが人生を物語、瞳が心を映し出してました。

ビートたけしがお腹の出ただらしない体を見ながら言いました。
「この体にするまで何百万かかったと思ってるんだ」

樹木希林がシワと白髪が増えた時に言いました
「せっかくシワが出来てくれて、白髪が生えてきてくれたんだからもったいないじゃない」

アンチエイジングやダイエットも必要だけれど年相応の姿ってあるものなんですよね。
無理に矯正しちゃうとほころびや不自然さがでてしまう。

マクドーマンドは本当に自然体だった。衰えた体を受け入れてそのままで表現してた、ヌードシーンとかも含めて佇まいがこの上ないほどきれいでした。

肉体と精神て別物だと言われてるけれど、その二つを一つにしていくのが人生で正しい年の取り方なのかも知れない。とにかく憧れてしまうほどのいい年の取り方です。

現代のジプシーのような生活をする人々。車一つで自由に暮らす人々がアメリカには多いことや、老人が最期を求めて旅をする事など興味深い題材だった。
なかでも印象的だったのは燕の巣の話をする所。

これほどまでに美しいものを見たことが無い、その瞬間の幸福が人生最高の瞬間で今、死んでもいいと思えるほどの景色。
確かに人生で一番幸福な時に死にたいと願うのは当然の事、今まであんまり意識してなかったけれど人生最大の感動ってなんだろう?もう出会ったのかまだなのか、それを知るまでは生きていたい。

諸星大二郎の短編漫画「カオカオ様が通る 」にも同じような考えを持つ民が出てくる。
顔をフードで隠している怪しげな人々だが、実は感動的な風景や現象を見ないようにしているのだ。なぜなら、感動的な物を見た時、人生で最も幸福なこの瞬間に自殺を選んでしまうから。ノマドランドのワンシーンをかなり前から諸星先生は漫画で表現していた、それは人間の普遍的な願いの一つなのかも知れない。

余談だがこの漫画の影響で、私は学生時代にとあるオンラインゲームである試みをしていた。
冒険やレベル上げなどほっておいて、そのゲームで最も自分が気に入った場所を見つけ、そこに居続ける事。
ひたすらに景色を眺め続け、そこに来た他のプレイヤーに挨拶をする、それだけのゲームプレイ。
友人に話したら笑われてしまった「せっかく月額払ってんだから冒険をたのしもう」と言われてしまった。実際、すぐに飽きて冒険を楽しんだし、上記の試みはほぼ失敗だったのだけれど。今ならできるかも知れない。
まあ、ゲームより現実で旅とかして感動した方が映画にちかいけれど。

話が逸れたが本当に素晴らしい映画でした。
誰が見ても心に染みて人生に影響を与える作品であることは間違いないです。

----------------------------------------
劇中セリフより

「この旅に『さよなら』はない」

またどこかで会える、死ですらちょっとのお別れでしかない。
そうなると友人を多くもっておきたいですね、また会えるなら色んな話がしたいし聞きたいから。

フリント