劇場公開日 2021年3月26日

「ブラボー! フランシス!!」ノマドランド aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ブラボー! フランシス!!

2021年4月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

今現在、画面映えする初老の女優としては、No.1だろう。きらびやかで美しい女優は数多いるが、これだけ大画面に映える女優は、なかなかいない。
スクリーン一杯に広がる彼女の横顔。年輪を重ねた皺がしっかりと刻まれ、荒れた肌。あきらめを湛えた瞳は、時折相手を見透かすような光をきらめかせる。多分、年齢相応の顔なのだけど、いわゆるハリウッドのセレブ女優とは違う、独特の哀愁を漂わせる。いわゆるハードボイルド調の、チャールズ・ブロンソンや、クリント・イーストウッドのような匂いを感じる。とにかくかっこいい。「スリー・ビルボード」での、いつ爆発するかわからない勝ち気な女性というのもハマっていたが、本作の哀愁漂う格好良い人間の方が、しっくりきている。

さて、物語はといえば、リーマンショックで家を失った犠牲者を描いた作品というだけでは、本作の良さは伝わらない。社会問題としての面はあるにせよ、それ(一般的には過酷な方)を選択して人生を送る人もいるのだ。一般化した見方だけで、人の人生の良し悪しを決めつけないで欲しい。と言った主張があり、劇中でも「ホームレスではなく、ハウスレス」との主張も。とはいえ、車中暮らしは課題も沢山あるのも確か。苦労は絶えない。

本作では主人公ファーンの車中生活が、延々と描かれる。乱暴に言えば、ただそれだけだ。年末はAmazon倉庫の短期の仕事で働き、季節が変われば次の仕事口を探して車で移動。良いことも悪いこともあり、周囲の同じ高齢者のノマド生活者との交流が淡々と描かれる。日々は流れるが、いつか終わりは来ることを頭の片隅で思いながらも、今日を過ごす。

会話シーンはほぼ、頭の切れた大映しでマクドーマンドの顔が、どっしりと画面を埋める。彼女の葛藤やあきらめ、寂寥感などと相まって、画面に引き込まれる。映画館サイズの横長の画面では、彼女の背景に、荒凉とした砂漠や雪の風景がセットで存在する。後ろに広がる荒野などの自然が、横長の画面では、より広がりを感じる。映画館で観なければ、この奥行きは感じられないだろう。

荒野を主とする自然は、本作の大事な助演者だ。彼女の王国である狭いバンの車内との対比が常にある。彼女は小さなバンを駆って大きな自然の中で自由に生きているようであるが、そのバンに縛られてもいるわけだ。また、バンを通じて、彼女を受け入れてくれるかどうかわからない社会とつながっている。

数年前、アメリカの西海岸北部からグレートキャニオンあたりまで車で旅行したことがある。ただ何もない荒凉とした土地で延々と車を転がしていると、ちよっとした寂寥感みたいなものが湧いてくるのと同時に、少しの高揚感を感じた。人を打ちのめす力と、元気にさせる力が、茫漠とした自然にはあるのだろう。その時に、キャンピングカーか何かで、アメリカ横断するのも良さそうだと思い、未だに本作のようなノマド生活に少し憧れもある。せめてアメリカ東西縦断くらいは、生きているうちにやってみたい。

まだまだ書きたいことはたくさんあるが、この辺で。今年一番の快作です。

AMaclean