劇場公開日 2021年3月26日

「ロードムービーの開拓者のような生活と終活」ノマドランド ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ロードムービーの開拓者のような生活と終活

2021年4月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

車上生活と季節労働をしながらアメリカを周る六十代女性の1年をドキュメンタリータッチで描くロードムービー

凍てつく荒野にある貸し倉庫に思い出の物を取り来た女性ファーンの険しく寂しげな表情から始まり彼女は、各地移動してAmazonの倉庫や公園の管理人やファーストフードレストランなどで季節労働を繰り返し亡くながら車上生活を送ってゆく姿を淡々と捉えてゆく。

行く先々で多くの同じ世代で同じ境遇の車上生活者との交流や助け合いをしながら、逞しく生きるファーン達の姿にカメラは静かに寄り添ってゆく。
先々で働きながらも、オフには同じ境遇の仕事仲間と観光や酒を酌み交わして楽しんでいるので、困窮した印象は薄いが所々に過酷な生活や彼らの過去が垣間見える構成も巧み。

モノローグもナレーションなく進む物語は、時折ドキュメンタリー?かと思うほどリアルに彼らの生活を克明描写してゆくが、陰惨な印象より厳しい環境を進む開拓者の様に見える。

この作品のキモの部分は、やはり美しい情景撮影で、砂漠や荒野の朝の光や深い夕景や日没後の空と台地のグラデーションなどの時間帯での営みを徹頭徹尾に映像にしてる。(かなり全編に)

そしての荒野の光の中や凍てつく季節での労働を、合否を超えてに捉えていて、一般的に搾取労働現場の代表のようになっているAmazonでの場面も、仲間たちとの交流や出会いの場として描かれており、一方的搾取労働を断罪している訳ではないが、同時に製作者達が、原作のルポから切り離した部分であろう。
ファーンが、ノマドワーカーになるきっかけのリーマンショック不況については、明らかに怒りを表明しているが。

フランシス・マクドーマンドの演技派にある上手すぎるアクを出さない、リアルな立ち振る舞いも素晴らしく、長年住んでいた土地を追われた悲しみと空疎な心を体現していて、特に友人の家に来て綺麗で広い寝室をあてがわれて、背後にも所在なさげな表情を感じる演技など短いカットながら巧みで唸る。

多くのノマドワーカー達は、高齢者が多くて皆多く語らないが、個人的にはファーンが二度出会い交流する青年の旅人が魅せる控えめで微笑む姿が印象的。
演じる役者の表情もイイ。彼が早朝に旅立つ場面にファーンから贈られた詩がモノローグ的に重なる場面は忘れがたい。

監督クロエ・ジャオの卓越した演出と撮影のジョシュア・ジェームス・リーのルックの構築は見事で傑作だと思う。

ちなみにNetflixなどで配信されているクロエ・ジャオと撮影ジョシュアとの前作『ザ・ライダー』を観ると、本作の雛形的秀作だと分かる。

2021年4月20日追記
Amazonの扱いに一部賛否が出ている様子だが、いつかこの映画も搾取労働を隠蔽した映画として断罪される時代がくるのか?
『風と共に去りぬ』が断罪された様に。

ミラーズ