劇場公開日 2021年3月26日

「傑作であることは確かだが個人差のあるテイスト」ノマドランド Pegasusさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5傑作であることは確かだが個人差のあるテイスト

2021年3月31日
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鑑賞方法:映画館

今年の賞レースで独走をする今作。やっと観れました!
クロエ・ジャオ監督の前作、『ザ・ライダー』がグサッと深く胸に刺さった映画だったのでかなり期待して観たんだけど…
うーん。ちょっと肩透かしかも。

洗練された撮影と抑制されたセリフ。
確実に心に残る傑作であるのだが、個人的には物足りなさを感じた。この物足りなさは一言でいえばラスト。
前作『ザ・ライダー』はまさに完璧な幕切れで、自然と涙が溢れるような素晴らしいラストだった。それに対し今作はとてもアッサリと幕を閉じる。
「あれっ?これで終わり?」というのがエンドロールが始まった時に思い浮かんだ言葉。
「過不足の美しさ」は好きだし結末を観客に委ねる余韻の深い映画も好きだ。
しかし過不足の美しさ、がある訳では無いし、余韻がとりわけ深い訳でも無い。
ノマドのドキュメンタリー的な立ち位置で、人生の一部を切り出す作品であるので、あの幕切れで正解なのかもしれない。
泣かせりゃいい、という訳でも無い事も分かってる。
その上でもやはり物足りなさは感じてしまった。もう一パンチ最後に喰らいたかったな…
多分、定年を経験した人ならば刺さると思うし、アメリカ文化の知識もそれなりにあった方が理解が深まると思うので、そこは本当に個人差がある。

クロエ・ジャオ監督は何故だか知らないけど、ありふれた普通のことをエモーショナルに感じさせることが出来る人で、淡々としながらも、ラストへ向けての追い込んでいく構造をしている。
「主人公の目的を探すまでの物語」という、「始まりの終わりを描くような作品」と個人的には解釈していて、その上でのあの決してハッピーエンドとは思えない、どこか鬱蒼としたラストからは「誰しも心の喪失があって、今日も必死に生きている」というメッセージを感じた。

それにしてもクロエ・ジャオは素晴らしい才能だ。
色濃い照明では無く、自然光を用いた奥行きのあるリアルな映像。 無駄に色調を整えることもなく壮大な自然の美しさが光る。
そしてドキュメンタリー調な撮影により登場人物に体温を与え、説得力とシリアスさが増す。だからフランシス・マクドーマンドは言うまでもなく素晴らしい演技なのだが、リアルな素人でも演技が上手に見える。素人が無表情で棒立ちしている姿を撮るだけで「演技上手だな!」と思ってしまう撮り方。
そのような編集、撮影、照明などが見事に調和し、魂を揺さぶる。

アカデミー賞作品賞としては正直うーん、という感じだし『Mank』の方がウケそうな気もするけど、監督賞は是非とも獲って貰いたい。

まだ感じ取れていない部分は沢山あるだろうし、安易に評価はしにくい。また今度、じっくり観てみたい作品です。

Pegasus
Mさんのコメント
2022年12月28日

私は「スリー・ビルボード」でフランシス・マクドーマンが好きになり、この映画も楽しみでした。しかし、思っていたほど、この映画を見て感動することなく、みんながとてもほめるのが、不思議な気持ちでいました。このレビューを読み、同じような感性の方がいて、何かほっとしました。

M