劇場公開日 2021年3月26日

「ルドヴィコ・エイナウディの奏でるピアノの響きが印象的なリアルで逞しくどこまでも優しい人間ドラマ」ノマドランド よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ルドヴィコ・エイナウディの奏でるピアノの響きが印象的なリアルで逞しくどこまでも優しい人間ドラマ

2021年3月30日
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鑑賞方法:映画館

大企業USジプサム社の工場とともに栄えたネバダ州の街エンパイアは工場の閉鎖とともに見捨てられやがて郵便番号も無くなったゴーストタウン。その街で暮らしていたファーンは夫の死後、売れるものを売り払って手に入れたキャンピングカーで全米各地を転々として働く“ノマド“となった。低賃金の季節労働とキャンプ場での不便な生活は過酷だったが、小さな街で暮らしていたファーンは行く先々で眼前に広がる雄大な自然と、そこで出会う人達との触れ合う中でかつての慎ましやかな生活では得られなかったものを見出していく。

本作は登場人物に実際のノマド達が実名で大量に出てくるのでフィクションとノンフィクションが綯交ぜとなった少々風変わりな構成。見ようによっては主演のフランシス・マクドーマンドが取材して回るルポルタージュにも見えてしまいます。ノマド達が語る言葉には熟成された教訓がぎっしり詰まっていて、狭苦しい国土で心に余裕を持つこともなく暮らす我々の人生観をグラグラと揺すぶってきます。

カメラで捉えられた広大な自然の美しさとノマド達の凛とした逞しさが印象的な作品ですが、それらを包み込むように流れるピアノの音色に『最強のふたり』を観た時と同じような深い安堵を感じましたが、演奏はどちらもルドヴィコ・エイナウディ。胸に染み渡るような残響がドラマをしっかりと際立たせているので、音響がしっかりした環境で本作を鑑賞するのが吉だと思います。

よね