劇場公開日 2021年3月26日

「感想:物語が様々な人に開かれていることの大切さ + (おまけ)登場人物スワンキーさんが気になった方へ」ノマドランド moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0感想:物語が様々な人に開かれていることの大切さ + (おまけ)登場人物スワンキーさんが気になった方へ

2021年3月29日
PCから投稿

 普段娯楽映画を見慣れていて、こういうタイプの映画を見ない友人にこの映画を勧めるとしたら、私は「映画のメッセージとか考えなくていいから、ただ2時間旅をするような気持ちで味わえばいいよ」と言うと思う。この映画を見た人ならわかると思うが、この映画は私たちに「ノマドになれ」と言うような押しつけがましさは微塵もない。

もちろん、この映画にはリーマンショック以降のノマドの生き方を選んだ人たちのアンチ資本主義的な態度や、アメリカの貧富の格差が映し出されていると思う。でも、その生活の実はネガティブな側面も同時にたくさん描かれているし、ノマドを選ばず定住する人たち、家族を持つ人たちの姿も描かれている。彼らがノマドになった理由は政治的なものだけではなく、もともと彼らの中にあった個人主義的な考えと結びついていたり、過去に囚われて次の人生にすすめない事が原因だったりと、当たり前だが一つの理由ではない。この映画に「この人の生き方が正解です」等というものはないのだ。

「この映画の意図は?」と評論家的な答え合わせをすることよりも、この映画を見ている時間を味わう事、自分がこの映画を見てる間何を感じるかを見つめる事が大切だ。(それは実はヴィム・ベンダース等の過去のロードムービーの伝統にも通じるところがある。)分断の時代、誰もが自分側か敵側かとネット上で争っている時代に、巨悪を凶弾したり、これが正義だと息巻くのではなく、ただそこにある人達の本当の生活をしっかりと静かに見つめる。そのことによってこの映画は主義主張を超えて、多くの人に開かれていると思うのだ。

この映画を見られた方にもう一つおまけとして、伝えたいことがある。(よって見てない人はここからは飛ばしてほしい)

この映画は二人のメインの役者を除いて、全て実在の人物が本人を演じている。では、素人とは思えない忘れられない印象的な演技を見せてくれた、スワンキーさんに起こったあのような大変な出来事も事実?と気になられた方もいらっしゃったのではないだろうか?そこで、英語の関連サイト等で確認してみたところ、実際のスワンキーさんにはあのような病気は無く、健康に今もノマドの生活を続けられているそうだ。あの話は実は彼女の旦那さんに起こった悲劇をもとに彼女が演じていたのだそうだ。彼女はちなみに、フランシスマクド―マンドの事も二度もアカデミー主演女優賞をとった女優とは全く知らず、誰かのホームビデオぐらいの映画に自分が出るのだと思っていたらしい。

moviebuff
Mさんのコメント
2024年4月1日

スワンキーさんの情報、ありがとうございました。私はこの作品をとても楽しみにしていたのですが、肩透かしをされたような気持ちになっていました。
今回、このレビューを読んで、もう一度見直してみようかな、と思っています。
あわせまして、ノーランさんの実の娘の話を「オッペンハイマー」のレビューで読んでビックリしました。どこでそんな情報をえられるのですか?
英語のサイトを自分で探されているわけですよね。自分が英語ができないので、とてもありがたかったです。

M