劇場公開日 2021年3月26日

「ナレーションのかわりに流れるピアノ旋律が心に響く」ノマドランド bionさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ナレーションのかわりに流れるピアノ旋律が心に響く

2021年3月29日
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鑑賞方法:映画館

 本編を通じて伝わってくるファーンの生き方や考え方に徐々に共鳴し、ノマドという生き方に憧れさえ抱いてしまった。フランシス・マクドーマンドの演技力には圧倒される。実在するノマドの一人を追いかけているドキュメンタリー映画にしか感じない。

 ノマド的ライフスタイルのいいところだけを切り取って映像にはしていない。高齢者には過酷な肉体労働、ついて回る病気、金欠、排泄物の処理までも隠すことなく描かれている。

 積極的な理由でノマドになった人たちは、ほとんどいない。公的年金だけでは、家賃を払うことすらおぼつかない。ホームを家から大型ワゴン車やキャンピングカーに変えることによって家賃から解放され、経済的な自立が可能となる。その代償として、季節に応じて非正規の職場を何千キロも移動する渡り鳥のような生活が待っている。しかも過酷な肉体労働しかない。

 ノマド的ライフスタイルを新しい自立と肯定的に捉えることはさすがに自分にはできない。行きすぎた自由主義経済からこぼれ落ちた人達が、生きる目的を必死で探した結果だと思う。それであっても良き労働者、良き隣人であり、助け合って生活するノマドの生き方には感動すらする。

 ただ、橘玲氏が指摘しているようにノマドとして生活できるのは、白人にだけ許された特権であることも見過ごせない。有色人種が禁じられた場所で車中泊をすれば、あっという間に逮捕されてしまうからだ。

 いろいろな問題を含んでいるとはいえ、映画としては秀逸で、ナレーションのかわりに流れるピアノ旋律がノマド達の心情を語っているように感じる。

bion
pipiさんのコメント
2021年4月15日

白人にだけ許された特権。
仰る通りですね。
また、もし日本で定住しない選択肢が許されるとしたら、マイナンバー国民総背番号の徹底が交換条件ですよね。
自由が許されるのは管理社会の枠の中でしかない。そのくせ、社会保障は不十分に過ぎる。
魂の流浪には、身体が定住しているかどうかなど関係ないのかもしれませんね。

pipi