「癒しの旅」ノマドランド かとしさんの映画レビュー(感想・評価)
癒しの旅
定住しない生き方を選択する動機は、ただいろんな場所で生活することが楽しいからなのかもしれないが、この映画に出てくる人々は、あまり楽しそうではない。
逆にいろんな事情を抱えて生きることが苦しそうに見える。
自分は、本作の定住しない生き方は、癒しの旅、もしくは巡礼なのだと思った。
生きていく上で心の傷を負うことは多い。年を取るほどに取り返しのつかないことも増え、静かな絶望の中で生きる人も少なくない。
そうした痛みを抱えながらも、自然の中に身を置き、清浄な水に浸かることで心身が浄化されていく。
また同じような境遇に身を置く人々と交流することで、まるでセラピーのグループワークのように心が解きほぐれていく。
癒しの旅は、自分の内面の闇と対峙する孤独なプロセスなのだ。
そうした巡礼を経ていくことで家族との関係、交流する人々との関係が見直され、人と人が助け合って生きていくことの重要さを再確認する。
フランシス・マクドーマンドの演技が超絶素晴らしい。
この人の佇まいの説得力は尋常じゃない。
それと撮影の美しさと音楽。
とても地味な内容の作品で暗くなりがちな脚本なのだけど、それを格調高い作品に昇華させている。
若干、地味すぎ、暗すぎ感は否めないのだけど、大人の映画ファンを納得させる渋い作品でした。
コメントする