「大都会の片隅で生きる人々にお勧めしたい"ハウスレス"という価値観」ノマドランド 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
大都会の片隅で生きる人々にお勧めしたい"ハウスレス"という価値観
昨秋、ヴェネチアとトロントの各映画祭で最高賞に輝いて以来約半年、その間、配信系の有力作が次々と参戦して来たが、依然として賞レースを先頭で引っ張るパワフルな1作。筆者もこれを観てから3ヶ月以上経つのに、頬を撫でるような映画の空気感はいまだ皮膚にこびりついたままだ。ヒロインのファーム、及び登場するノマドたちの、家に定住せず、かと言ってホームレスではない"ハウスレス"な生き方にも大いに触発される。我が家に住まい、定職に就き、家族と共に生きる人生はそれなりに価値はあるだろう。でも、たとえ家を持たなくても、仕事は行き当たりばったりでも、孤独でも、いつも心の中に家族の記憶を留めたまま、荒野を流離うことの潔さに、不意を突かれた気がするのだ。もしかして、定住することの方が、返って変容を余儀なくされているのではないか?という疑問に駆られるのだ。だから、これは我々に家族との関係性について再考を促す、偶然とは言え、コロナ禍に現れた観る必要がある映画。大都会の片隅で、1人淋しく故郷を思いながら過ごしている、日本のどこかにいるに違いない人々に、心からお勧めしたい。
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