「歴史上の人物の胸中をこんなふうに奏でるとは」ミス・マルクス 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
歴史上の人物の胸中をこんなふうに奏でるとは
時は19世紀の終わり。カール・マルクスの末娘のエリノアは、偉大な父の亡き後、いったいどんな人生を送ったのか。この物語は、労働者や女性の権利向上のために活動した主人公の生き様を描きつつ、同時に、毅然とした表情の裏側にある彼女ならではの苦悩を浮き彫りにする。とはいえ、イタリア生まれのニッキャレッリ監督はこの映画を決してそこらにあふれた定型的な伝記の域にとどめようなどとは全く思っていない。それゆえヒロインの中で感情がたかぶりを見せる時、その思いを代弁するものとしてなんとパンク・ミュージックを炸裂させる。これにはきっと賛否が分かれるはず。だが監督の目には確かにこう映ったのだろうし、彼女の生き様からパンクの魂を感じたのもきっと事実なのだろう。それを純粋に映像へと昇華させることこそひとつの作家性である。成功しているか否かは別としても、この大胆な試みというか失敗を恐れない度胸を、私は興味深く受け止めた。
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