「この世には、神も仏も無いものか」ニューオーダー ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
この世には、神も仏も無いものか
メキシコ国旗の三色の意味は夫々、
緑=民族の運命における国民の希望
白=カトリックや宗教的な純粋さ
赤=国に殉じた愛国者の血
を表していると言う。
ところが本作での、特に緑は凶兆以外の何物でも無し。
壮麗な自宅を会場とした結婚パーティの最中、
主の妻が水道の蛇口を開くと
そこからは緑の水が流れ出す。
誰かの悪戯かとも思うものの、
ほどなく水は通常の透明さを取り戻したため、
訝りつつやり過ごしてしまう。
或いは、邸外に駐車している車に掛けられた
緑色のペンキは、誰によるものか。
が、
街を騒乱に陥れていた暴徒が、突如として塀を超えて乱入、
殺人や強奪、放火との狼藉をはたらき出す。
焼殺奪、所謂「三光」は
もっとも非道な行為とされているが、
市中のみならず、安全であるはずの邸内でも
阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。
持たざる者が、持てる者から全てを奪い尽くす下剋上。
それは今まで虐げられ、簒奪されて来た人々の恨みの発露。
勿論、それを肯定し、溜飲を下げるエピソードとは
とてもならないけれど。
一方、主の娘『マリアン(ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド)』は
式の主役の花嫁であるにも関わらず、
嘗ての使用人を助けるため、
共を連れ車で市中に向かう。
天晴れな、常であれば賞賛に値する行為。
にもかかわらず、ある種無謀なその行動が、
彼女を窮地に陥れる。
嘗て観た幾つもの映画作品の中で、
もっとも理不尽で救いのない一本。
善を行うものほど、やるせない仕打ちが待っており、
とてもではないが常人の脳裏から創り出されたモノとは思えぬほど、
救いの無さに満ちている。
とは言え、コトの大小はあれ、人の世はこうした不条理で溢れているかも。
「正直者は馬鹿を見る」との箴言も、過去から人々の口に上るのは世情。
直近のこの国でも、官の側の人間が率先し、
大規模な不正に関与した事実が明らかになったばかり。
ましてやこれは氷山の一角で、
甘い汁を吸う人間は多く存在すると考えることの方が妥当。
そうした諸々を激しくデフォルメし、
監督・脚本の『ミシェル・フランコ』は我々の前に突きつける。
「さあさあ、御覧じろ。これが貴方達が住んでいる世界の本質ですよ」と。
「貧富や立場の差は関係なく、人間は容易に獣に変わりますよ」と。
「神は善き行いを推奨していますが、悪行への因果応報は本当ですか」と。
ヒロインが着ている、赤色のドレスも象徴的で、
先のメキシコ国旗の色の意味に重ね合わせて見るべき。
全てが真逆の意図で使われており、
あまりの諧謔に背筋を寒くする。