劇場公開日 2021年1月8日

「実験的設定のもとで楽しむ人間観察」おとなの事情 スマホをのぞいたら ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0実験的設定のもとで楽しむ人間観察

2021年1月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 舞台演劇を元に作ったのかと思わせる密室劇だが、2016年のイタリア映画がベースになっている。イタリア版未鑑賞なので本家の設定を調べてみたが、幼馴染同士で気軽に催されるホームパーティーという、日本ではイタリアほどには馴染みのない設定を本作では上手くローカライズしてあり、日本版ならではのちょっとした謎にもなっている。
 会食の場でスマホを公開することから次々と暴露される互いの秘密の内容も、大筋はオリジナルを踏襲しながらも細かい部分は日本においてリアリティのあるものに変えられていて、妙な生々しさがある。仮に現実世界でそれがバレたなら当事者同士の関係修復が不可能そうなものが混じっているので、くすっとしつつも時折「これ、笑っていいんだろうか…」という不穏な感じがよぎった。イタリア映画でイタリア人がやらかすのを見るほうが生々しさが薄められ、イタリア人的ノリも加味されて単純に笑えたかもしれない。
 そもそもこの作品は、大人が抱える本音や秘密を互いにオープンにした場合に起こる、面白い化学反応を見るための思考実験のようなものなので、登場人物の人間性を批判したり、お膳立てに泥臭いリアリティを求めるのは野暮だろう。例えば、木南晴夏演じる杏はこの実験の口火を切るキーパーソンだが、生真面目に鑑賞するとただのサークルクラッシャーで腹が立つだけだ。
 スマホは持ち主の偽らざる本心の象徴だ。登場人物の誰かにイラっと来たあなただって、他人に言えない本音や秘密があるでしょう?人としてこうあるべきといったお説教はゼロで人間臭さをありのまま描写する映画。ちなみにノザキのコンビーフの壮大なプロモーションビデオでもある。

 真面目だが不器用であか抜けない塾講師を演じた東山紀之は、普段の俳優業は二枚目の役柄に偏っていて、情報番組等でもそのキャラを守っているイメージがあった。今回、そんなヒガシがどれだけ突き抜けた演技をするのか注視していた。
 何故なら、18か国でリメイクされた本作のサイトにある他国バージョンの予告編を見ると、オリジナル含めほとんどでヒガシの役には生え際の後退したふくよかな俳優が当てられていた。そのキャスティングの是非はさておき、これはヒガシが普段のイメージを捨てて、相当役に寄せる必要があるのではという印象だったからだ。
 結果、これは本当に私の主観だが、ジャニーズのオーラを消せていなくてちょっとがっかりした。そこまでひどい棒演技なわけではないし、意外性を狙って頑張ったんだなと思わせる場面もあったが、どこか最後のラインを守っていて平常時の彼の影が消えなかった。
 ハゲてくれとまでは言わないが、髪型が東山紀之のまんま過ぎたので、せめて違う髪型にしていればもう少ししっくり来たかも知れない。

追記

 配信でイタリア版観賞。ジェノベーゼ監督のインタビュー記事も読んで、恥ずかしながらラストの意味がやっと分かった。
 日本版も同じオチを描いたつもりなのかも知れないが、圧倒的に分かりづらい。違うオチでは話が締まらない。
 イタリア版のラストにこそこの物語の個性が詰まっているので、そこを観客にきちんと伝わるように描かないと物語の魅力が半減するのでは?

ニコ