「やはり最大の見どころはトラボルタ」ファナティック ハリウッドの狂愛者 shunsuke kawaiさんの映画レビュー(感想・評価)
やはり最大の見どころはトラボルタ
トラボルタほど毀誉褒貶が激しく、幅広くバラエティに富んだ役を演じる人はあまり見当たらない。その意味で本当にこの映画はザ・トラボルタ。トラボルタの数奇な俳優人生が導き出した究極のかたち。彼の生き様を見せられたかのような映画。
『グリース』や『サタデー・ナイト・フィーバー』で世界的なブレイクを果たし、その名を知らない人はいないくらい有名になったのに、エミリオ・エステベスが『D2 マイティダックス』シリーズの人として知られていったように、『ベイビー・トーク』シリーズの人となとなっていく。かと思いきや、ブライアン・デ・パルマ監督を敬愛し、『ミッドナイト・ナイト・クロス』を生涯のベスト映画に何度もあげているクエンティン・タランティーノに見出され『パルプ・フィクション』で2度目のブレイク。
強面を強調してジョン・ウー監督のアクション映画にも出演。ひょろっとした体でクネクネした踊りを踊っていた自身のイメージを払拭したかったのだろうか?
その後は、『バトル・フィールド・アース』でのバカすぎる宇宙人役で悪い意味で人々の記憶に残ることに。
その宇宙人にも増して、キャリア初期に青春スターとして大成功した後にその爽やかなイメージをぶち壊す俳優道をあえて進んできたと確信させてくれる、そんな自傷癖を感じずにはいられないのが本作の役どころ。
大好きなB級アクションスターに好かれたくて、サイン会で覚え愛でたくしてもらおうとサイン迫ったら、ファンなんか全然気にもしてなくて、むしろ軽蔑しているクズ野郎。これはおそらくトラボルタ自身であり、自虐的に自身をカリカチュアライズしたといえるキャラクター。
トラボルタも狂ったファンやパパラッチに追いかけられたり、ファンにうんざりすることもあったんだろう。ときにはファンにひどいことを口走ったりしたかも。
『サタデー・ナイト・フィーバー』の時の強烈なスター性にあふれたトラボルタが大好きなファンは、彼のイメージを青春スターとして固定化して追いかけをするだろう。それくらい彼はかつて輝いていたし、カッコいい大スターだった。でも、勝手に自分が何者であるかを他人に決めつけてくる、そんなファンにトラボルタがうんざりしているのは容易に想像できる。
そんなうんざりするファンを、狂ったキャラとして演じてみて自分の俳優人生を俯瞰して冷静に振りかえることができたんだろうと思うとともに見えてくるのは、彼の役の幅広さと奇人変人を演じたがるその指向は、『サタデー・ナイト・フィーバー』のイメージで固定化してくるファンへの復讐であるということだ。
トラボルタの復讐によって、青春スターのトラボルタが好きだったファンは落胆のどん底に突き落とされ、それを嬉々として楽しむトラボルタの顔が目に浮かぶ。