「まったく違うホームズ作品」エノーラ・ホームズの事件簿 NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
まったく違うホームズ作品
前提として
・2回目
・原作は未読
・日本語訳版「シャーロック・ホームズ」シリーズは大体読書済
自分の知っている「シャーロック・ホームズ」とは全く違う雰囲気を持った作品。
今まで観てきたものといえば、ロバート・ダウニー・Jr.とジュード・ロウ主演の「シャーロック・ホームズ」および「~シャドウゲーム」、ベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマン主演の「SHERLOCK」などだった。時代や描き方に違いはあるものの、両方とも不穏かつスリリングな雰囲気が常に漂うバディものである。
今作が大きく他と違うところが二つある。
まずは甘酸っぱい恋愛模様。バディはいないが、デュークスベリーという"役立たず"が割り込み、もどかしい関係が出来上がる。最終的にお互いを助け合う部分が、別の見方のバディとして成立していて面白い。
そして親子愛。原典では描かれにくかった部分で、事件を解決すればエンディングとならないのが良い。最後までエノーラの目的が、母親探しなのが探偵としての始まりにつながっていて自然かつ応援したくなる。
この二つの要因から、非常に薄暗いはずのロンドンの裏事情が、ポップに描かれていて楽しかった。
大きなテーマとして描かれた、女性蔑視への社会批判。当時のロンドンを舞台にしたのに、現代の状況とリンクする。男性に従事するのではなく、(力を借りながらも)独立する女性像。エノーラ・ホームズという一人のキャラクターと時代をもリンクさせていく。現代も変わっていくのだろう。社会すらも楽しみにさせてくれる作品だ。
物語ではなく映画として観ると、描写が非常に上手いのも良い点。特にカットイン。ところどころ幼少期の記憶が挿し込まれるのが、エノーラの心理描写に一役も二役も買っている。
そしてエノーラの表情(ミリー・ボビー・ブラウンが上手い!可愛い!魅力的!)!! 第四の壁を越えながらカメラ目線で語りかける、あの演出がクセになる。推しにカメラを向けるファンの気分だ。
個人的にすごく気に入ったのが、ホームズ兄弟の描き方。知能は異常に高いが社会に無関心な弟と、頑固かつ古い価値観でしか社会を見ない兄。
ワトソンが居なかったり、マイクロフトがめっちゃ悪役として描かれているところに気になる人もいるかもしれないが、これはこれでアリだと感じた。
全てが新鮮で、ホームズをよく知っている人も、知らない人も楽しめる、そんな作品。
冒険心と温かい気持ちを欲してる人にオススメ。