マイ・バッハ 不屈のピアニストのレビュー・感想・評価
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ブラジル音楽といえばサンバやボサノバ・・・というイメージを破壊されました
序盤から中盤にかけて淡々とした成功物語だったのに、数々のエピソードとちょっとした事故によって挫折を味わうことで彼の痛みが爆発的に伝わってくる内容だった。その波乱万丈の人生の中でも、3度もカムバックするところでは感動とともに、年を取ってからでも出来る!という希望を与もえてくれるものでした。
リオ・パラリンピック大会の開幕式でも3本指でピアノを演奏して話題にもなったピアニストらしいのですが、リオ・オリンピック=マリオのイメージが定着して、他の何も覚えていない記憶障害のkossy。こんなに素晴らしい音楽家だったとは思いもよりませんでした。
サッカーを楽しんでいるときに倒れ、右手の3本の指が動かなくなり、リハビリ、金属ギプスでの演奏。鍵盤が血だらけになるシーンでは目を覆いたくなるほど痛々しかった。そして、復活を果たしてからバッハの全曲をレコーディングする偉業に挑戦するときに再び悲劇が襲う。簡単に女を引っ掛けるから・・・もう。
脳の神経が近道をしてしまい、言語能力がそのために失われる・・・なんて医学的な話は全くわかりませんが、そんなこんなで二度目の結婚相手カルメンが彼の心をよくわかっていたため、苦渋の決断も難なく。と言った具合に“破滅的”な芸術の追及も失われたかのように思われたのでした。
最後の本物のジョアンの演奏にも涙できるし、何より彼自身のレコーディングした音源をそのまま使用した作品でもあるので、音楽の素晴らしさにも涙できることでしょう。多少、映像と音楽がずれているのもそのためかと思います。
クラシック音楽は苦手な分野でしたが、途中でボサノバ曲が流れて嬉しくなったし、ロックミュージシャンと一緒に番組に出るといった興味深い事実も描かれてました。そして劇中では「キース」、「カール」と名乗っていたけど、明らかにエマーソン・レイク・アンド・パーマーの3人が登場しました(本物じゃないけど)!「いつもジョアンの演奏に刺激されてんだよ♪」などと言うELPも「展覧会の絵」などクラシック作品を演奏するほどクラシックとジャズを盛り込むプログレッシブロックのアーティスト。バッハ好きの方も必見だが、ELPファンも必見だ!
神様の気まぐれ⁈
昔のことなので出典が定かでないのですが、モーツァルト(バッハでなくてすみません)の音楽について、こんな風に表現されていたのを読んだような記憶があります。
モーツァルトが作曲したのではなく、彼だけが、神の作った旋律を見つけることができたのだ。
嘘だと思うなら、モーツァルトのピアノ協奏曲20番台を聴いてみるがいい。
当時も今も〝絶対音痴〟で、音楽関係は謙遜抜きで本当に疎い私ですが、実際に聴いてみました。
うまく言えないのですが、直接〝琴線〟に触れてくるように染み通ってくるものがありました(音楽音痴の私には琴線なんてちょっと矛盾した例えになりますが)。
野球の神様とか勝利の女神、というように、スポーツの世界にはたくさんの神様がおられます。他にも市場の神様とか相場の神様とか、ややいかがわしい世界にもたまに神様が登場しますが、あくまでも比喩的な使い方です。
しかしながら『音楽の神様』だけは本当にいるんじゃないでしょうか。
バッハもモーツァルトもベートーベンも神の遣わした使徒で、ジョアンのような時折現れる神童も神様の気まぐれのおかげのように思えてきます。
自分が一番縁遠い世界だから、というのもあると思いますが、同じ創作の営みであっても、小説や映画などとは違いを感じます。
小説や映画などの物語であれば、どんな感動作でも、とても人間臭さを感じるのに、音楽に圧倒される時の至福や崇高さにはどこか手の届かない神々しさのような感覚があります。演じ手それぞれの個性もその時々の神様の気分の表れでしかないような。
ボヘミアン・ラプソディの時も同じようなことを感じた記憶があります。
『蜜蜂と遠雷』がまた見たくなりました。
Brazilがうんだ稀代のRock Star
「アートとは誰かの心に傷をつけること」。社会学者の宮台真司氏はいう。
まさにJoão Carlos Martinsのperformanceは映像と演奏を通して観客の心に傷をつける。
彼の演奏する音楽はクラッシック音楽だが、彼の生きかたはRockだとしかいいようがない。
天才であればあるほど、ちょっとした細部のズレに神経を尖らすもの。彼の場合は度重なる不運(自業自得の感もあるのがご愛嬌)にもかかわらず、不条理と彼に襲いかかるハンデをバネに跳ね返すくらいのperformanceを披露する。暗くなりがちなストーリーを明るく魅力的にみせるのは、彼のキャラクターの魅力。
壮年期のGoldberg-Variationensは若い頃のテクニックバリバリの演奏の勢いはないが、彼が歩んできた人生の重みと想いが指先一本一本に込められ、それはそれでまた違う味わい深さがある。
作品中の演奏はJoão Carlos Martins本人の演奏。今もまだまだご活躍の様子。
命がけで愛する、音楽
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