「厄介者? いや、勇気ある者」カラミティ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
厄介者? いや、勇気ある者
西部開拓時代のアメリカに実在した女ガンマン、カラミティ・ジェーン。
ドリス・デイ主演作、セシル・B・デミル監督作やウォルター・ヒル監督作などの映画、小説やゲームの題材にも。
しかしながら私、名は映画のタイトルで聞いた事あるくらいで、実は題材の映画も見てないし、よく知らない。
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』のレミ・シャイエ監督の新作という点に惹かれて鑑賞。
『ロング・ウェイ・ノース』は秀作アニメーション映画だった。
日本の緻密でリアルな映像美とも違う、ましてやハリウッドのCGアニメとも違う。
言うなれば、日本の往年の東映動画のような素朴なタッチ、キャラ。
ジブリ作品のような冒険劇、エンタメ性。
それらがまた今回の題材にピタッとハマった。
『ロング・ウェイ・ノース』は北極圏への冒険だったが、今回はアメリカ大西部。
フランスの監督がアメリカ西部を舞台に?…という違和感も全く無くなっていく。
緑の平原、雄大な山々、何も隔てるもの無く見渡せる夜空の星…。
素朴でありながらも、これぞアニメ本来の画の美しさに唸る。
大西部ならではの大地を馬で駆ける醍醐味、躍動感。
その中で描かれる伝説の女ガンマンの活躍。
…には非ず。
その少女時代。
何処までが史実通りで、何処まで創作か分からないが(Wikipedia調べでかなり脚色されてるようだが)、
物語は自由に創造。
父と幼い姉妹と共に、旅団とオレゴンへ向かうマーサ。
とにかく彼女、旅団の中の問題児。
活発。負けん気が強い。男勝り。
女の子らしい事に全く興味ナシ。
馬に乗り、馬車を操り、縄投げ、男の子に売られた喧嘩は臆する事なく受け、果てはスカートではなくズボンを履く。
そんな彼女の行動はただの身勝手ではなく、ちゃんと理由があって。
旅の途中、父が負傷。父に代わって家族を守り、引っ張っていかなければならない。
非常に責任感ある性格。
が、周囲からは…。
困った…と言うより、白い目。旅団の恥。何かとトラブルを起こす…その元凶。
“カラミティ”とは“厄介者”の意。
野獣に襲われている所を、一人の青年少尉に助けられる。
地図のコースから外れている旅団の道案内も買って出る。
親切でハンサムな少尉に旅団の女の子たちは憧れるが、マーサの“憧れ”は違う。彼と付き合いではなく、彼のようになりたい。
そんな時、事件が…。
少尉が突然姿を消す。旅団の持ち物が盗まれる。
端からそれが狙いだった。
とんだとばっちり。少尉と最後に会っていたマーサは共犯にさせられる。
旅団の中のマーサへの苛立ち、不満が大爆発。
マーサは縛られ、追放待ち。
男尊女卑でもあり、子供への無情な仕打ち。
誰も信じてくれない。話も聞いてくれない。耳を貸してくれない。
女性同士でさえも。子供同士でさえも。家族も…。
身の潔白を証明する方法は一つ。
私自身で少尉を見つけ出し、盗まれたものを取り返す。
こっそり逃げ出し、マーサは旅に出る。
すぐさま旅団の追っ手。
逃げる道中、マーサは熊に襲われている一人の少年ジョナスを助ける。
追っ手は何とか振り切ったものの(マーサらが川に落ち、追っ手らは死んだと思った)、とあるいざこざから手錠で繋がれジョナスと行動を共に。マーサは自分は“男の子”だと性別を偽る。
とある村に到着。少尉の上官である大尉に少尉の居所を聞こうとするが、ここでトラブル。大尉の怒りを買って、執拗に追い掛けられる。
逃げる最中助けてくれたのが、金を掘り当てようとしている貴婦人。
女一人で事業を展開する婦人の事業を助けた事で気に入られ、少尉探しに手を貸してくれる事に。
そして遂に、少尉の居所を突き止め…。
別に好き好んで招いてる訳ではないのに、マーサの行く先々でトラブルが。その都度、敵視される。
これも後の伝説の女ガンマンの前兆…?
敵や反感も買う一方、出会いも。
力を貸してくれた婦人。
何よりジョナス。
最初はヤな奴だったが、次第に冒険の相棒に。
別れ際は相棒/友としてか…? それとも…? ちょっぴりのほろ切なさ。
冒険の目的を果たしたマーサ。
何も少尉をどうこうしようとはせず、盗品を取り戻せればそれでいい。
罪を憎んで人を憎まず。
一人立ちし、自由になり、このまま好きに生き、何処へでも行けた筈。
だがマーサは、旅団に戻る。決して仲間や家族を見捨てない。
戻った時、旅団は険しい道にピンチ。
そこへ颯爽と現れ、旅団を救ったマーサの姿は勇ましい。
盗品を取り返した。旅団のピンチを救った。
でも何より、生きていてくれた。
もう誰も彼女の事を邪険に言う輩はいないだろう。
女は女らしく。古い習慣。
それさえも自身の勇気と信念で変えた。
冒険と出会いと成長を経て、
道を切り拓いてゆけ、カラミティ・ジェーン!