スパイの妻 劇場版のレビュー・感想・評価
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息苦しい時代、生き苦しい時代
NHK-BS8Kで放送されたドラマ『スパイの妻』をスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として公開したものだそうだが、8Kを観れない僕はドラマのほうは未見。
いやぁ~、すごい映画だった。これが歴史もの初挑戦という黒沢監督、結構すごいところまで踏み込んだな。ある意味タイムリーだったというか、これは必見。まさか731部隊のネタを取り上げるとは。日本映画では初めてなんじゃないだろうか? 公式サイトやパンフのストーリーでもおそらくはあえて全然触れてなかったんで、予想外の驚きでした。ストーリー展開も、特にラストは「やられた!」という感じで面白かった。
そして役者陣も素晴らしい。主演の蒼井優も夫役の高橋一生も本当に演技が上手いが、それ以上に憲兵隊長を演じる東出昌大がもう最高。まさにハマり役という好演で、『寄生獣』の時といい、悪役がハマる俳優なのかもしれない。まあ、この人もこのちょっと前にいろいろあったが、おそらくはそれ以前に撮影された映画に出まくり状態になっていた。黒沢監督の『散歩する侵略者』にも出てた若手女優の恒松祐里も脇役でまた出てて一服の清涼剤。ま、とにかくこれはおすすめ。傑作です。
通常の邦画の枠に囚われない魅力を感じだ⛴️
蒼井優さんと高橋一生さんの演技のパワーが拮抗していました。東出さんは過去の時代の人物を演じると、合っている様な気がします。旦那を官憲に売ってからすぐ、旦那と亡命を決める展開は、観客が手玉に取られたのかなと思いました。亡命を決行するシーンは緊張感があり、本作で一番良かったです。他の多くの邦画とは別格に感じたので、通常の邦画では無くBSスペシャルだから、枠に囚われずに制作出来たのだと思いました。結果的に、主人公は旦那がやりたかった事を全部潰しましたが、良く出来た舞台劇みたいで、出会えて良かったです。
主人公の印象がコロコロ変わる面白さ
物語が進むにつれて、蒼井優演じる妻の聡子に対する印象が次々に変わっていく。結局この女は何者なのだ?と引き込まれる。
いたいけなヒロインだと思っていた聡子が一転、夫を助けるために仲間を売ったりする辺りも怖い。
結局夫は妻をダシにして自分だけ逃げ延びたのか?あるいは危険な旅に巻き込まない様に、自分が聡子にされた密告と同じ方法論であえて密航を阻止させたのか?
9.5ミリ自主映画での余興が色んな伏線になってるところが憎い。
精神病院らしき場所で狂ったフリをして追及を逃れていたかと思いきや「私は狂ってませんから」とほくそ笑むシーンでそれも怪しくなってくる。そもそもこの物語自体が狂った聡子の妄想だった可能性も?(カリガリ博士みたく)。空襲で崩壊した病院の中を歩いていくカットも幻想的で記号的で現実感がない。
NHKのドラマとして作られたせいなのか、映像に深みが無くて、重厚な内容と合わないのが残念。
専門家ではないので何がこの軽さを生んでるのか判らないが、ライティングが下手なのか?8Kのカメラは綺麗なだけで一眼レフカメラの様な深みが出せないのか?NHKのお偉いさんからお茶の間でも観易い様にライトな画作りを求められたのか?そもそも日本の映画・ドラマは映像の深みを重視していないのか?ハリボテの舞台劇みたいで映像視聴の快感がない(海外はドラマでさえ映像の深みがある…予算の問題?)。いやいやもしかして聡子の妄想説がここに繋がるのか?それであえてリアリティのない映像にした?
どこまで企まれた作品なのか気になる
黒沢清氏をホラーの名手としか認知してなかったので首長竜あたりで興味を失っていた。最近になって「岸辺の旅」「散歩する侵略者」と鑑賞して認識を改め本作。舞台もキャストも黒沢作品としては新鮮だった。たぶんイデオロギーや歴史認識は作劇上のギミックに用いた(不穏と恐怖の新たな舞台にちょうど良かった)に過ぎずメッセージ性はないと解釈してるので、そこに引っかかる人とは相性が悪い作品かと。ただ、そこも踏まえて当時8K限定とは言えNHKでというのは何やら企みめいた意図は感じる。イデオロギー色を逆手に取ったといおうか。作品を創るには制作費・環境と発信手段が必須なので。あくまでも個としての人間が、世界と虚実ないまぜなまま不確かに関係する様と独自の表現様式が創作の核にある監督で、思想に踏み込むスタイルの人ではないと思う。
劇中自主映画でアップで映し出される蒼井優が息を飲むほど美しかった。お見事です!
【追記によりネタバレ】
ロールスクリーン前での「お見事です‼️」はさすがに混乱してたと思う(嵌められたことを強調し錯乱して見せることを咄嗟に思いついた可能性も?)が、医師との面会では全て悟っていたように思う。夫は憲兵隊長の惚れた弱みと妻が本当に騙されていたことで、拷問や死刑は免れると踏んでいた。案の定狂ったフリと取り計らいがあったであろう病院暮らし。それでも海岸で号泣したのは、ずっと夫と一緒に生きることこそ彼女の望みだったのだから、哀しみの堰が切れたということだろうか。再会できたが否か言及されてないが、まあ鑑賞者の望みは概ね一致するだろう。いささか男に都合がよすぎるきらいがあるが、時代背景を踏まえればやむ無しか。観終わった後となっては果たして計画の動機すら本気であったかすら怪しい。食えない男だ。
美しい話ではなかった…
聡子はあまり好きにはなれない女性だった。
彼女は夫、優作へ独占欲「自分だけが夫の志を支えられるんだわ!」ということに酔っているだけで、戦争も正義も実はどうでもいいことのように見えた。もはやウキウキ楽しそうでしたもの…
モデルがあるなら仕方ないか…と思ったが、調べてみるとどうやらフィクション...。
なぜそんな女性に描いたのか?それが意図?
題名から勝手に夫を理解し支える妻をイメージしていたから、感情移入できるとこが見出せずやっぱり好きになれない女性。優作は本当に聡子を愛していたのかしら?
監督賞というより主演女優賞
とにかく蒼井優の演技につきる。
おそらく演出の指示が出ているからこその
昭和の映画スターのような喋り方になっているのだろう。
指示があるからとそのようにできる
蒼井優の能力は大したもの。
しかしそれが蒼井優だけで、夫や周囲の人物達は
そうじゃないのはなぜなのだ?
お手伝い以外はろくに関西弁でさえない。
神戸舞台の話だというのに。
星の数は蒼井優に捧げるもの。
幼なじみ将校は東出じゃない方が良かった。
彼の不倫には興味はない。
単に、あの役は特別見た目がよくない方が効果的に思うし
もっと不気味さを漂わせられる演技力のある俳優にして欲しかった。
ストーリーは面白い部類だろうとは思う。
個人的には随所で先の展開は読めた。
いろいろ惜しいと感じる点が多い。
それもつまらなければ惜しいとは思わないので
及第点は超えてる。
最後スッキリとはいかないが、良く出来たオリジナル脚本と感心
黒沢清 監督による2020年製作(115分)の日本映画。配給:ビターズ・エンド。
良く出来た脚本(濱口竜介及び野原位+黒沢監督)だと思った。高橋一生夫婦が余興で作った映像が、最後に大きく生きる展開は、多少あざとさも感じたが、やはり鮮やかで見事。控えめで受け身の妻に思えた葵井優が、途中から寧ろ夫の上を行き積極的に反政府的に行動していく展開も、実に面白く、それが最後の意外性をより強く印象つけていた。
一緒に米国へ行こうとしたが、夫の高橋一生に言わば騙されて安全を確保されて、「お見事です!」と曰う蒼井優の演技も、とても印象的であった。流石の演技で、お見事。
満州731部隊による人体実験の告発が、主人公たちの行動目的になっていて、日本映画等では多分タブー視されている様な状況なので、かなり驚かされた。ただ、こういう普遍的な価値を重視する様な人間が本当に当時存在していたら日本人として嬉しいな、という思いは掻き立てられた。
きっと、夫高橋一生は米国で元気でおり、戦後渡米したとされた妻蒼井優と会うことができたのだろう。結局は夫婦愛の映画であったとは思うのだが、妻の安全を重視した夫と、何処までも一緒に行動したかった妻という、各々の違いが浮き彫りにされた映画でもあり、必ずしもスッキリとはせず、苦味の様なものも感じられた。
監督黒沢清、脚本濱口竜介 、野原位 、黒沢清、エグゼクティブプロデューサー篠原圭、 土橋圭介 、澤田隆司 、岡本英之、 高田聡 、久保田修、プロデューサー山本晃久、アソシエイトプロデューサー京田光広 、山口永、ラインプロデューサー山本礼二、技術加藤貴成、撮影
佐々木達之介、照明木村中哉、録音吉野桂太、美術安宅紀史、スタイリスト纐纈春樹、ヘアメイク百瀬広美、編集李英美、音楽長岡亮介、VFXプロデューサー浅野秀二、助監督藤江儀全、制作担当道上巧矢。
出演
蒼井優福原聡子、高橋一生福原優作、坂東龍汰竹下文雄、恒松祐里駒子、みのすけ金村、玄理草壁弘子、東出昌大津森泰治、笹野高史野崎医師。
新しいタイプのホラー。
笑顔で車に乗る妻を見て途中で「拷問されればいいのに!」とまで思ったけど、拷問よりひどい仕打ちを受ける結末が面白かった。
もっと単純に「いい映画」を想像していた自分が甘かった…と思わせてくれる映画。素晴らしいです。
うがって見たから?
高橋一生好きじゃないんですよね。あと大作風の日本映画も苦手。そのせいかいろんなことが鼻についちゃって。蒼井優だけ気を吐いて昭和初期の銀幕女優みたいな話し方してたけど、他の人が普通なので哀れにも浮いてた。街中のセットピカピカすぎるでしょ、黒沢清ってディテール気にしない監督なんだ、とか。こんな感じでハスに見ていたせいかもしれないけど夫による妻への裏切りの真意がよく分からんかった。ホントにスパイだったんだよね?となると妻はただのコマで愛情はなかった?なんか二人の関係の描き方ではこの辺全然ピンとこなかったし、東出くんなんの役割してたの?これでまたメジャー日本映画から距離を置く理由ができてしまいました。
主演二人の演技は好き
甥が泊まってる旅館の橋に怪しいやつ多すぎやんとか、妻が隠れる貨物船の箱 明らかひとつだけ目立ってるよねとかツッコミどころはありました。
しかし、妻が夫と二人歩むことを望むあまり 夫の甥を売るという狂気的なところ、そんな妻を夫が裏切り国に捨て行くところなどは結構好きでした。
ただ、空襲のとこまで描く必要性はなかった気がします。ラストがあまり好みじゃないです。もう少し余韻が欲しいような……。
自主制作映画が流れだし夫の裏切りがわかった時点でFin.にして、あの明るい曲調のままエンドロールに入ってくれたなら、まだもう少し好きになれた気がします。
ドラマ…
全体的には再現VTRのような映像で、衣装、台詞、舞台すべてがチープに感じてしまった。ドラマの劇場版だから仕方ないのか、映画とは呼べないと思った。ラスト、夫の死は偽装で妻はアメリカに行ったような匂わせで終わるが、結果論で、コスモポリタンだか知らんが、妻一人、負けるとわかってる日本に置いていかないと、全く共感できなかった。
蒼井優が原節子に見えた。
ひかりTVビデオ(独占見放題配信)で鑑賞。
ドラマ版は未見です。
蒼井優が原節子に見えた。誇張ではなく、はっきりそう感じました。時代考証のために言葉遣いが昔の言い回しだったせいもあるでしょうが(台詞回しはかなり上手かったように思います。当時の喋り方を会得するために戦前や戦後間も無い頃の秀作映画をたくさん観たに違いない)、それだけじゃない。
愛する夫に疑念を抱きながらも、大義のための行動に協力しようとする。それは何故か。妻だから。それ以外に無い。
そんな妻の心の動きを見事に表現した蒼井優の演技が小津安二郎監督作品などでの原節子の姿を連想させたのです。
当時本作がつくられていたならば、きっとこの役は原節子が演じることになったのではないかと思いました。
※修正(2023/05/15)
お見事です!
先日野田秀樹先生の「フェイクスピア」と言う舞台で、高橋一生さんの凄まじい芝居を観て、すっかり彼の芝居の虜になりました。
観るたびに別人になっている高橋一生さんの芝居を堪能したくて、コロナのせいで映画館で観そびれていた今作を拝見させて頂きました。
高橋一生さん演じる夫が日本国軍の闇に気づき、苦悩する様も素晴らしかったのですが、蒼井優演じる世間知らずの奥様が見事に変わりゆく様が何とも、はい、お見事です!
あの時代の神戸の様子と小洒落た衣装、趣味の映画など、ココロをくすぐられる美しい映像が満載のなか、ささやかな思い違いから産まれた嫉妬心。少しずつ変わっていく妻。
ドラマ的には事件の当事者である高橋一生の目線で進んでいくのがスパイ映画の王道だと思いますが、ここであえて夫ではなく、世間知らずの奥様の目線で進んでいくストーリー。
実際に夫はスパイではないが、世間知らずの妻目線には国に歯向かう夫はスパイ。
大事な夫と一緒にアメリカに行くのは、あの女でなく私。
私はスパイの妻。すべての原動力は自分の幸せ。
貿易で他国と付き合い、視野の広い夫と夫との小さな世界しか知らない妻。
大きな世界で起きている荒波に正義のために戦う夫と小さな世界で人に言われた事を鵜呑みにして、利己的に戦う妻の対比。
戦前の社会に翻弄された夫婦の物語が本当にお見事でした。
妻には嘘がつけないと言うまっすぐな夫。自分の幸せのために人を見殺しにしたり、盗んだりする妻。
密航の密告は妻を守り、自分の正義を貫くためであり、裏切ったのではない。
エンディングの字幕での夫の死亡報告の偽造。
そして数年後妻はアメリカへ渡った。
たったそれだけの字幕。
私は夫に呼ばれたのだと解釈した。
途中で夫が妻を捨てる決意をした瞬間があったのか、二度見して確認したが、どの瞬間にも妻を捨てようとする気配は感じなかった。
そして実験で他国民が殺された正義の為に戦った夫が妻を捨てる訳があろうはずがない。
ほとぼりの冷めた数年後に妻をアメリカに呼び寄せたのだろう。
そして自分の幸せのために妻はアメリカに走った。
お見事なエンディングです。
真実は鑑賞者に委ねる
前から観たかった作品
ようやくdvd鑑賞
なのにうっかり寝てしまった部分があって、後ろから鑑賞し直した
最初見た印象は、優作のひどい裏切りと感じたのだけれど
後ろから見直すと全てが、優作の計算で深い愛が見えてくるから不思議だ
亡命資金作成の為に貴金属の買い物の際の聡子の浮かれきった様子、尾行に気づかない妻の様子は、メイドにでさえおかしいと気づかれているのに、本人はごまかせていると思い込んでいる稚拙さ
優作は、聡子に美しい育ちのよい妻であることしか望んでいなかった
その妻が、密航するとか(自分の糞便とともに食事をすること)想像さえ出来ずに、愛の為にできると思い込んでいる
そんなことをさせたくなかったこともあるだろう
そんな聡子に愛しさを感じながらそれは重荷で枷で、全ての計画を無にしてしまう恐れ
全て利用するしかなかったと思う
最後
戦後の翌年に、夫の死亡通知が届き偽造された後があり、それをみて聡子はその数年後渡米する
私は、優作は生きていて彼に呼ばれたと思う
病棟で昔の知人医に語る聡子の言葉が深い
彼女が見通していたのはここまでだったのだろうか
それとも彼の計画と愛までだったのだろうか
監督 黒沢清って知って少し以外だった
もっとえぐい話を感情的な映画にしたがる監督と思っていたからだ
楽しめました
計算された素晴らしい作品
優作、聡子、甥の文雄、憲兵の津森、ドラモンド、野崎医師、死んだ女性 と、この作品は登場人物が少ない中、とても緻密に作られた作品だと思う。
見ていた時に気になった(フラグの立った)シーンがいくつかあった。
①序盤、趣味の撮影をしている際に妻聡子が「金庫の番号は覚えてしまったわ」と言ったこと
②イギリス貿易商ドラモンドが預かったフィルムをネタにゆすってきたこと
③聡子が船の船底に隠れていた時に船長とボブがあっさり居場所を教えたこと
①に関してはその後聡子が証拠品を盗むために金庫を開けて伏線は回収された。でもこれはおかしいと思う。大事な証拠品を聡子が見ている前で金庫にしまったからだ。
つまり優作はわざと聡子に証拠品を盗ませるよう仕向けたと考えるのが自然ではないか。
②ドラモンドはスパイ容疑で憲兵に捕まったが、優作が保釈金200円(約50万円相当)を支払って解放された。当時の憲兵の取り調べなら獄死だって充分あり得る事態から助けてもらった命の恩人をゆすったりするものか?見ていた時は「ひでーイギリス人」と思った。しかし後になってよく考えると聡子と別ルートでアメリカに行くための口実に優作が嘘をついたのではないかと。
③本当に聡子をかくまう意思があるなら憲兵に嘘の場所を教えてその隙に逃すとか手段はいくらでもあったはず。それをいともあっさり教えたということは、ここまでも全て優作から指示されていたのではないか。
それから満州に行ったのは何か情報を掴んだ野崎医師から調査依頼があったからではないか。野崎医師は終盤のワンシーンで聡子に面会に来た時に重要なことを語る。優作のことは全部わかっている、とようなそぶりで。
つまり、優作と野崎医師とドラモンドはスパイ仲間で日本を戦争へ向かわせ敗戦させることで修復を図ろうと企てたのではないだろうか?
そしてエンドロール。戦争も終わり目的を達成し偽造文書で別人になりすましてアメリカにいる優作の下へ、聡子は行った。
とにかく暗い画面が多い。
貿易会社の社長の優作が満州で甥とみたものは、日本軍が行っていた人体実験だった。
それを正義から告発しようとしたものの、時代は太平洋戦争に突入した頃。売国奴と言われるだけだった。
アメリカに亡命してこの現実を明らかにしようとするも、妻をも欺き、妻を売国奴にしようとするのを止めた愛情深いところ。
甥を犠牲にして告発をしようとするのは最初から優作の策略だったのだろうか。そのあたりも回収してほしかった。
昭和15年~20年頃の日本は群集心理のようなもので、トップが言い出したらそれは納得していなくてもYESと言わなければならない雰囲気である。その中で偽造の死亡届と見破り、アメリカに渡って再会できたのは唯一の救いか。
731部隊の告発者
残念なのはフィクションとしてもモデルに近い人すら思い浮かばないことだろう、もっとも戦争の当時を知る人たちも齢を重ね語れる人もいなくなってしまった。731部隊の残虐非道はことごとく軍により隠ぺいされ、戦後、進駐軍ですら実験データと交換に免責の措置をとったので明るみにでるのは終戦の4年後に旧ソ連が開いた軍事裁判、ハバロフスク裁判であった。
うがった見方をすれば告発の勇気をもった一般人は居なかったのか、いや居て欲しかったというのが、十字架を背負わされた戦後生まれの若い脚本家たちのせめてもの悲願なのかもしれない。
脚本の濱口竜介と野原位は黒沢清監督が芸大で指導していた教え子たち、「先生、神戸を舞台に一本撮っていただけないか」と持ちかけ、銀獅子賞までとらせてしまうのですから大した先生孝行の生徒さんたちですね。
テーマは人道的であるし告発の主人公でなく寄り添う伴侶の視点で描いたこともヴェネツィア映画祭の審査委員長ケイト・ブランシェットさんの胸を打ったのでしょう。
そもそも主人公はスパイではありませんし軍の関係者も知人なので訴追も手加減されていますのでサスペンス調の緊迫感は希薄、主題は例え国家に背いても夫を信じる健気な妻、愛の物語といったところでしょうか。これはこれで有りでしょうが個人的にはもう少しベテランの俳優陣で観たかった気もしました。
虚実
「あなたの前では嘘はつけない」というのは、本人が嘘つきでも正直者でも合理的な台詞な訳ですね。しかし、夫婦間でやり取りされる虚実の駆け引きは、実はあまり引き付けられなかった所。それよりも蒼井優が抱きつくときの表情にやられる。終盤の戦争描写と空襲に見舞われる惨状での演技で、作品の印象ががらりと変わった。東出昌大の演技も冴えていた。
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