スパイの妻 劇場版のレビュー・感想・評価
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「ダゲレオタイプの女」との類似点が若干認められたが
黒沢清監督作品はVシネマも含め大半を好ましく鑑賞してきたが、この4年ほどの映画には以前ほど乗り切れずにいる。「スパイの妻」は現代や近未来の日本でない舞台設定や、古風さや格調高さが趣になっている点で、「ダゲレオタイプの女」(16)に近い印象を受けた。今作のある種舞台劇のような台詞も、現代口語からの異化という点で外国語に近い効果があった。蒼井優と高橋一生は台詞回しを含め難しい役に健闘したと思う。
振り返るに、黒沢映画の恐怖や暴力の表現を通じて人間の本質を鋭くえぐり提示するような衝撃と刺激に虜になっていたのだが、近作ではそんな要素が希薄になった気がし、物足りなく感じるのかもしれない。監督の成熟と進化であり、作品としてソフィスティケートされてきたのは確かだが、それに追いつけないもどかしさが乗り切れない理由かも。「岸辺の旅」(15)あたりまではキャッチアップできている気がしていたのになあ…。
高橋一生、蒼井優、東出昌大の演技が冴えベネチア国際映画祭の銀獅子賞も納得。会心の黒沢清監督作。
本作は今年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞しました。
1940年の「太平洋戦争前夜の神戸」が舞台の中心となっていますが、この舞台や美術、装飾などが意外に凝っています。これは、製作にNHKがかかわっているため、割と豪華で緻密な撮影を敢行することができたようです。通常の作品では雑音が入ったりして「アフレコ」で後から声を入れます。ところが本作では、メインキャストは撮影時のままの声をそのまま使っていて、それがリアリティの源泉にもなっていました。
貿易会社の社長に扮するのは高橋一生で、映画のタイトルにもあるように、ちょっと謎な感じの人物を飄々と演じています。
そして、その妻に扮する蒼井優は、夫の「謎」に翻弄されながらも、高橋一生と「騙しあい」を繰り広げ、その怪演が見どころです。
さらには、蒼井優が扮する聡子を心配すると同時に、国家への忠誠を守らなければならない憲兵に扮する東出昌大も緊迫感のあるシーンを見事に演じ切っていました。
独自性もあり、歴史の闇に迫った意欲的なサスペンス映画だと思います。
超高解像度の撮影で登場人物の心情を表現
元々は今年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマを、劇場版としてスクリーンサイズや色調を新たにし、1本に再編集したものです。物語の舞台は太平洋戦争前夜、1940年の日本。相反するものに揺さぶられながら、抗えない時勢にのまれていく夫婦の愛と正義を賭けた様を描いています。
ロケ地、衣裳、美術、台詞まわし、すべてにこだわったというだけに一級のミステリーエンターテインメントに仕上がっていて、これまで黒沢清監督が手掛けてきたものとは一線を画すようなテーマ、物語とも言えますが、8K・スーパーハイビジョン(超高解像度のテレビ規格)撮影によるその映像表現には舌を巻きました。
脚本には「寝ても覚めても」の濱口竜介、「ハッピーアワー」の野原位と海外で評価された才能が参加し、音楽は「ペトロールズ」「東京事変」で活躍するミュージシャンの長岡亮介が手掛け、黒沢監督よりも若い世代との化学反応を起こしています。そして、美術の安宅紀史、衣裳の纐纈春樹が再現した昭和初期の世界観も見どころのひとつです。
主演は、テレビドラマ「贖罪」、映画「岸辺の旅」で黒沢組に参加している蒼井優。「ロマンスドール」に続いて高橋一生が蒼井と夫婦役を演じ、ふたりの心情の変化を繊細に表現。憲兵の分隊長を演じた東出昌大とともに確かな存在感で監督の演出に応えています。
黒沢監督は最初から劇場公開も視野に入れて、映画として作り上げていることがうかがえます。スパイものというジャンルの枠組みのなか、超高解像度の撮影でどこまで登場人物の心情を表現できるのか、光と影(闇)を意識し、これまで以上にあえてクラシカルで様式的なリズムに則った演出は必見です。
黒沢作品はいつも油断ならない
黒沢清監督の映画はいつも油断ならない。我々は得てしてカメラのフレームが切り取る四角い空間だけが物語の全てと思いがちだが、黒沢作品はその外側に「世界」があることを囁き続ける。窓から注ぎこむ怪しく優しい光。ゆらゆらそよぐカーテン。気にしなければ気にならないが、気になりだすと目が離せなくなる。この「内と外」をおぼろげな描写でつなぐやり方は、とりわけ本作の物語構造の中で効果的に活用されているように思えてならない。スパイ映画といえば諜報部やボンドを真っ先に思い浮かべがちだが、これは軍靴の音が高鳴る時代、一組の夫婦が真実を世に告発しようとする物語。今どこかで巻き起こっていることは、決して別世界の他人事では済まされないのだ。表と裏、真実と虚構、フィルム、映写機。主役なのに度々カメラの外へ消え去る高橋一生と、カメラの内部に取り残される蒼井優との関係性や互いに寄せる想いが、絶妙な感度で奏でられた逸品である。
レビュー
2020年の作品
黒沢清監督のドラマを映画ようにセルフリメイクしたもので、俳優陣も同じ。
この作品は見る角度によって感想も違ってくる。
歴史とは勝者の歴史であって、勝者の言い分のみが記録される。
これが念頭に出てくることで、この作品の観方が変わってしまうが、そこにどんな理由があれ、戦争となることで人々の思考は矯正される。
聡子の言った「私は一切狂っておりません。ただそれがつまり、この国では私が狂っているということなのです」というセリフにこそ、この作品が言いたかったことが現れている。
人々の思考を狂わせているのが戦争そのものなのだ。
上層部からの命令は絶対で、歯向かえば非国民や売国奴として処罰される。
そして、戦争中もその前にも起きるのが、「情報の操作」だ。
聡子が入院していた精神病院で、野崎医師は「福原優作は、インドのボンベイにいて、ロスに行くための船が日本の潜水艦に撃沈された」と言う情報を持って来るが、同時に「信用できる情報はなにもない」といった。
ここに含ませていたのが「信じること」
聡子は、優作が何をしようと考えているのかを知り、夫を信じることに決めた。
それはゆるぎのないことで、彼女の中の正義となり、生きる指針となった。
「もし、あの戦争を止められたなら」
この仮定は非常に稚拙だが、そこにこそ「夢」がある。
軍靴の音が日に日に強くなる現代 その危機感を肌で感じとる者が、この仮定を大真面目に取り上げる。
それを人々に見せて、過去の過ちと比較させようと努力する。
そして「気づけ」と叫んでいる。
さて、
当時あまり見る気になれなかったこの作品
スパイと聞くと思い浮かぶ稚拙なストーリー
しかしこの物語は、外国人たちと貿易をしていたからこそ、多角的思考を獲得した男の大志が描かれていた。
敵国とか偽情報によって思い込まされていたこの国の現状
その裏にあった人体実験と大量虐殺という士業
「お国のため」と言うキャッチフレーズに騙されなかった優作とフミオ
その目で見たことと許しがたい士業に「正義の大志」を掲げた。
そしてそれに参加した妻聡子
彼女は機転を利かせてしたことは、結果的にフミオの命を救った。
アメリカへの渡航は、逆に優作が機転を利かせた。
精神病院は、格好の隠れ蓑だった。
そうして、やがて終戦を迎えた。
この戦争を終わらせる。
優作の届けた資料がアメリカ軍を動かした訳では無いだろう。
アメリカも決して正義の国ではないし、むしろ日本よりもかけ離れている。
しかし、
優作が大志を掲げて自分の信じる正義に向かうという行為は、いつの時代でも必要なことだろう。
そしてこの「情報」は、今ではネット上に溢れかえっているが、その多くが嘘でもない。
ただ誤情報は多い。
しかし自身の頭で考え、選択することで、何が正しく何が間違っているのかは次第に分かるようになる。
我々は今、正確な情報と偽情報を同時に掴める時代に生きている。
優作やフミオや聡子のように、自分の頭で考え、そして答えを導き出さなければならない。
そうすると、クサカベヒロコが誰によって殺されたのか?
それは決して「たちばな」の主人ではなく、軍によって殺されたのだろう。
聡子は幼馴染タイジの言葉を信じるふりをしていた。
彼の情報に動揺はあっただろうが、最後まで優作を信じた。
だからアメリカに渡航した。
もし彼が亡命に成功していれば、決して二度と日本には戻ってくることはできない。
だから自分がアメリカに行く。
この強い決心と行動が、人生を切り開いていくのだろう。
この作品のタイトルがそもそも引っ掛けている。
軍や政府の意に沿わないものが非国民や売国奴という言葉でレッテルを貼られた時代
優作は、スパイなのだろうか?
そしてその妻もまた、スパイなのだろうか?
この物語は色眼鏡をかけた日本人視聴者に問いかける。
「この作品そのものがミスリードに感じましたか?」と。
お見事
このセリフに尽きる。
結局優作はどうなったのか。
告発できたのか、できなかったのか、そもそも本当に告発する気があったのか。
最初は時代がかったセリフ回しが気になったけど、それは慣れる。
蒼井優、うまいなぁ。
優作を慕う聡子に魅せられて
お見事な作品
観客に、スパイの妻たれと呼びかけている映画だと思いました
スパイの妻〈劇場版〉
2020年公開
第77回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞
編集
2020年にNHK BS8Kで放送されたテレビドラマを劇場用映画として公開されたものです
物語は1940年の神戸で始まり、1945年の神戸で終わります
スパイの妻というタイトル
スパイは誰?
もちろん蒼井優の演じる主人公の聡子の夫、高橋一生が演る福原優作のことです
まず8K で撮影されたドラマであることに注目したいと思います
超精細映像でこの物語を撮ることの意味を感じました
役者達には、戦前の映画の役者のような言葉遣いと話し方をさせています
美術セット、小道具、衣裳も緻密に再現されています
つまり、監督の意図はその時代をできるかぎり、あたかもタイムマシンのようにその時代を切り取ってきたかのような作品にしたかったのだと思います
そうすることによって、観客がこの世界が、21世紀の現代と地続きであることを実感できる効果を得ようとしたのだと思います
夫の優作は偶然手に入れたという日本が満州でやっていた非人道的な生物化学兵器の人体実験の実態という国家機密を米国に持ち出そうとします
そうすれば、第二次世界大戦への参戦を渋る米国を対日参戦に向かうように米国世論を誘導する事ができるだろうといいます
米国と日本が戦えば必ず日本は敗れ、戦争は終わるのだと
この時点では日本と米国は戦争はしていません
ご承知の通り1941年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃で始まったのですから、この時点での日本の戦争とは、日中戦争しかありません
日中戦争で日本を敗戦に追いやるために米国を日中戦争に参戦させるのだという意味にとれます
彼はコスモポリタンを自称して、忠誠を誓うのは国ではなく万国共通の正義だと言います
コスモポリタンとは、戦前の日本では単に世界を股にかけ、外国と交際の広い人というような国際人を意味しませんでした
インターナショナルも同様です
それは、国際的共産主義活動家を意味していたのです
左翼の方々が今も地球市民と自称されるのはその名残でしょう
そもそも戦前の日本では共産主義活動は悪名高い治安維持法によって非合法とされていましたから、国際的共産主義活動家とはスパイとイコールで結ばれる存在なのでした
優作はどこの国のスパイなのでしょうか?
イギリス?アメリカ?ソ連?
史実ではゾルゲ事件という一大スパイ事件が1941年にあり、日本がソ連を主敵とする北進論からアメリカと衝突する南進論に日本の最高戦略を誘導したソ連のスパイ団の摘発がされています
ゾルゲはドイツ人ジャーナリストの身分を隠れ蓑にして朝日新聞記者の尾崎秀実などを手先に引き入れて政界と軍部のかなりの上位層に食い込んでいたのです
また、史実でも、日本をアメリカと戦争させて敗戦に追いやるように米国世論に盛んに働きかけていたのは当時の中国でしたから、中国?
あのノートやフィルムも中国の用意したものだったのかも知れません
でも、それはどうでもいいことです
そんなことは本作の主題ではありません
おそらく監督の狙いは、このような情報を得たとき、私達21世紀の観客に、あなたはコスモポリタンとして優作のような行動をとるのか?当初の聡子のように「それでは売国奴ではありませんか!」となじるのでしょうか?と問いかけているように思えました
聡子はこう結論をだしました
「あなたがスパイなら、私はスパイの妻になります」と
物語は妻として夫を愛していつもそばにいたいという聡子の想いをメインに後半は進展しますが、聡子なりに非人道的な行為を糾弾したかったのも確かでしょう
クライマックスは1945年の神戸大空襲の夜です
既に東京は大空襲で焼け野原になっており、日本は敗色濃厚になっていました
これがスパイとしての夫が望んだ結果だと聡子は理解してこう言います
「これで日本は負ける、戦争も終わる、お見事です」と
あのような非人道的な事を平然とやるような日本は負けるべきだったのだ
それ故に、それをやり遂げた夫への賞賛の言葉でした
そして同胞の日本人を何百万人も殺すことになることを平然とやってのける男が、妻を騙すことぐらいなんでもないことだろうことにもやっと思い至った瞬間でした
貨物船での密航を憲兵隊に密告したのは夫であり、自分が上海に逃れる為の陽動に自分が使われ売られたのだということにも
浜辺で泣き崩れる聡子がラストシーンでした
テロップで聡子と優作が戦後に再会できたかも知れないという淡く甘い期待を観客に与えて、これが劇映画であることを思い返させて映画はおわります
クライマックスの前に野崎医師の面会を受けた聡子にこんな台詞があります
「いいんです。ひどく納得しているのです
先生だから、申し上げますが、私は、一切狂ってはおりません
ただ、それが、つまり、私が狂っているということなのです
きっと、この国では」
これが本作の言いたい事なのだと思います
防衛三文書の改訂が2022年にありました
それは日本が戦争ができる国に変わるための実質的な解釈改憲だったという方もおられるようです
本作が製作されている頃は、ちょうど改定に着手されていた時期だったというわけです
防衛三文書改定に反対する人に非国民、売国奴だとの言葉をぶつける方もいたようです
こういう風潮に警鐘をならしたいという映画だと理解しました
そして観客には、スパイの妻たれと呼びかけていたのだと思います
例え非国民とよばれようとも万国共通の正義に照らして正しいと思うことをなすべきだと
蛇足
今日は2025年8月3日
80年目の敗戦の日はもうすぐです
昨日中国では本作のモチーフとなった731部隊を取り上げた映画が急遽公開が延期になったとのニュースをみました
日中関係悪化を懸念して中国当局の介入があったとの分析がありました
米中対立激化の中、日本を中国側に引き寄せたいとの中国の思惑があるのでしょう
チベット、ウィグルでの非人道的問題、自由の失われた香港の現状、
台湾への軍事恫喝、尖閣諸島への執拗に繰り返される中国艦船や航空機の侵犯
自分には戦前の日本が中国に亡霊となって乗り移ったように感じられて仕方ありません
それでなくてもウクライナ戦争を目撃している私達は戦争が近づいている恐怖を感じるのです
そのロシアも果てしない消耗戦の末にかってのソ連崩壊のように国家崩壊に至る日が近いとも言われています
スパイの妻であれと期待されるのは中国の人々のようにも自分には思えます
しかし中国の反スパイ法は、戦前の日本の治安維持法よりも厳しく、公安警察組織も特高警察や憲兵隊も裸足で逃げ出すほどの苛烈さのようです
日本の薬品会社の人がスパイとして突然逮捕されさて禁錮3年6ヵ月の判決を受けたとのニュースもつい先日のこと
台湾有事のあと
聡子のように「お見事です」と言うのは日本人なのでしょうか?それとも中国人なのでしょうか?
息苦しい時代、生き苦しい時代
NHK-BS8Kで放送されたドラマ『スパイの妻』をスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として公開したものだそうだが、8Kを観れない僕はドラマのほうは未見。
いやぁ~、すごい映画だった。これが歴史もの初挑戦という黒沢監督、結構すごいところまで踏み込んだな。ある意味タイムリーだったというか、これは必見。まさか731部隊のネタを取り上げるとは。日本映画では初めてなんじゃないだろうか? 公式サイトやパンフのストーリーでもおそらくはあえて全然触れてなかったんで、予想外の驚きでした。ストーリー展開も、特にラストは「やられた!」という感じで面白かった。
そして役者陣も素晴らしい。主演の蒼井優も夫役の高橋一生も本当に演技が上手いが、それ以上に憲兵隊長を演じる東出昌大がもう最高。まさにハマり役という好演で、『寄生獣』の時といい、悪役がハマる俳優なのかもしれない。まあ、この人もこのちょっと前にいろいろあったが、おそらくはそれ以前に撮影された映画に出まくり状態になっていた。黒沢監督の『散歩する侵略者』にも出てた若手女優の恒松祐里も脇役でまた出てて一服の清涼剤。ま、とにかくこれはおすすめ。傑作です。
通常の邦画の枠に囚われない魅力を感じだ⛴️
蒼井優さんと高橋一生さんの演技のパワーが拮抗していました。東出さんは過去の時代の人物を演じると、合っている様な気がします。旦那を官憲に売ってからすぐ、旦那と亡命を決める展開は、観客が手玉に取られたのかなと思いました。亡命を決行するシーンは緊張感があり、本作で一番良かったです。他の多くの邦画とは別格に感じたので、通常の邦画では無くBSスペシャルだから、枠に囚われずに制作出来たのだと思いました。結果的に、主人公は旦那がやりたかった事を全部潰しましたが、良く出来た舞台劇みたいで、出会えて良かったです。
主人公の印象がコロコロ変わる面白さ
物語が進むにつれて、蒼井優演じる妻の聡子に対する印象が次々に変わっていく。結局この女は何者なのだ?と引き込まれる。
いたいけなヒロインだと思っていた聡子が一転、夫を助けるために仲間を売ったりする辺りも怖い。
結局夫は妻をダシにして自分だけ逃げ延びたのか?あるいは危険な旅に巻き込まない様に、自分が聡子にされた密告と同じ方法論であえて密航を阻止させたのか?
9.5ミリ自主映画での余興が色んな伏線になってるところが憎い。
精神病院らしき場所で狂ったフリをして追及を逃れていたかと思いきや「私は狂ってませんから」とほくそ笑むシーンでそれも怪しくなってくる。そもそもこの物語自体が狂った聡子の妄想だった可能性も?(カリガリ博士みたく)。空襲で崩壊した病院の中を歩いていくカットも幻想的で記号的で現実感がない。
NHKのドラマとして作られたせいなのか、映像に深みが無くて、重厚な内容と合わないのが残念。
専門家ではないので何がこの軽さを生んでるのか判らないが、ライティングが下手なのか?8Kのカメラは綺麗なだけで一眼レフカメラの様な深みが出せないのか?NHKのお偉いさんからお茶の間でも観易い様にライトな画作りを求められたのか?そもそも日本の映画・ドラマは映像の深みを重視していないのか?ハリボテの舞台劇みたいで映像視聴の快感がない(海外はドラマでさえ映像の深みがある…予算の問題?)。いやいやもしかして聡子の妄想説がここに繋がるのか?それであえてリアリティのない映像にした?
どこまで企まれた作品なのか気になる
黒沢清氏をホラーの名手としか認知してなかったので首長竜あたりで興味を失っていた。最近になって「岸辺の旅」「散歩する侵略者」と鑑賞して認識を改め本作。舞台もキャストも黒沢作品としては新鮮だった。たぶんイデオロギーや歴史認識は作劇上のギミックに用いた(不穏と恐怖の新たな舞台にちょうど良かった)に過ぎずメッセージ性はないと解釈してるので、そこに引っかかる人とは相性が悪い作品かと。ただ、そこも踏まえて当時8K限定とは言えNHKでというのは何やら企みめいた意図は感じる。イデオロギー色を逆手に取ったといおうか。作品を創るには制作費・環境と発信手段が必須なので。あくまでも個としての人間が、世界と虚実ないまぜなまま不確かに関係する様と独自の表現様式が創作の核にある監督で、思想に踏み込むスタイルの人ではないと思う。
劇中自主映画でアップで映し出される蒼井優が息を飲むほど美しかった。お見事です!
【追記によりネタバレ】
ロールスクリーン前での「お見事です‼️」はさすがに混乱してたと思う(嵌められたことを強調し錯乱して見せることを咄嗟に思いついた可能性も?)が、医師との面会では全て悟っていたように思う。夫は憲兵隊長の惚れた弱みと妻が本当に騙されていたことで、拷問や死刑は免れると踏んでいた。案の定狂ったフリと取り計らいがあったであろう病院暮らし。それでも海岸で号泣したのは、ずっと夫と一緒に生きることこそ彼女の望みだったのだから、哀しみの堰が切れたということだろうか。再会できたが否か言及されてないが、まあ鑑賞者の望みは概ね一致するだろう。いささか男に都合がよすぎるきらいがあるが、時代背景を踏まえればやむ無しか。観終わった後となっては果たして計画の動機すら本気であったかすら怪しい。食えない男だ。
戦後民主主義が…
こんな左翼映画のDVD、小林よしのりの「ゴーマニズム宣言」を読んでいる
奴に手渡したら、速攻でゴミ箱に叩き落されますよっ!!
何で、この映画が欧州の有名な映画祭で受賞できたのか?
それは欧州のみならず、世界から第二次世界大戦の最後に、何故に
日本は最後まで降伏を伸ばし、戦い続けたかの疑問に解答する内容
であるから。
極東アジアの小さな島国・日本において「この戦争は勝つ事が出来ない」と
悟った者達が、早くに世界と和平を結び戦争終結に力を注いだ人々を
「国賊」「非国民」と断罪したから、最後の最後まで降伏交渉が難航した…
弱小・島国でありながら、世界に戦争で抗う「身分不相応」な立場を
認識していなかった… よって、島国でない欧州の人々には「小さな日本」の
現実を見せる、手本のような「戦後民主主義的」な映画が、高く評価
される…
そう「いかなる理由があっても戦争をしてはならない!」という「戦後民主主義」
の思想…
同様に、世界からは評価を得た「カンゾー先生」にも、それは言える。
「身分不相応」な戦争を仕掛けたあげく「原爆投下」という天罰を受けた
というラストになっている。
原作小説には「原爆投下」は無い。
☆☆☆ 原作読了済み。 (観終わって直ぐに勢いだけで書きなぐったの...
☆☆☆
原作読了済み。
(観終わって直ぐに勢いだけで書きなぐったので、ちょこちょこっと手直ししてしまうのは、平にご容赦願います。)
特に原作至上主義ではありませんが、コレは、、、
そもそも原作自体が、戦争に突入する不穏な空気の中の時代。
それなのに、描写の一つ一つには緊張感が全く欠如しており。陳腐な脱出劇を含めて、それ程の面白さは💦
ところが映画本編は、そんな原作をすら越えてはいない…と言わざるを得ず、、、
但し、原作を読みながら。これは確かに黒沢清だ!…と言える箇所が有る。
それが、聡子が草壁弘子とゆう謎の女の亡霊の影に脅かされる場面。
原作だと。この亡霊に(確か)3回脅かされる。
初めは草壁弘子なる女の存在を知った時に、愛する夫に騙されているのでは?との疑いを。
2度目は「貴方なんかには負けないわよ!」…と。
そして3度目は、暫く別れ別れになる為に。夫に抱かれ上を見上げている時に、目の前の空中に女の亡霊が見える。
読みながら、その絵図を想像するだけで。「これはもう黒沢清が得意な題材じゃないか〜!」…と思ったものでしたが、、、
原作だと、プロローグは。福原家を整理している時に、既に亡くなったお婆ちゃんの若い頃の写真を発見する。
思わず「綺麗ね〜!」と溜息をつく《福原家》の孫達。
このプロローグは、最後のエピローグへと繋がって行くのだけれど、、、残念ながら、映画本編にはそのどちらも描かれてはいない。
その両方を飛ばした、1940年〜1945年までを時代に沿って描き。優作が満州で、草壁弘子と出会い。どんな事が満州で起きているのか?は一切描かない。
一応は、関東軍による731部隊の悪行が 〝 有ったであろう 〃との描写に留めている為に、その非道性がかなり薄い。
別に詳しく描く必要性は感じないのだけれど、その多くを台詞だけで説明する描き方はどうなのだろう?
とにかく、ストーリー重視の考え方なのだろうか?中盤辺りまでは、高橋一生と蒼井優。
(まさかの『ロマンスドール』に続いての夫婦役)
この2人の台詞で話を進めて行き。舞台劇を見ているかの様に、どんどんと一方的に観客に対して、内容を説明して行く手法は、、、
「本当に清〜どうしたんだよ〜!」…と(´-`).。oO
なるべくその辺りを感じさせない様に、長回しを多用し。更に滑らかに動くカメラワークで誤魔化している様に私には見えたのですが、、、
何しろ、これまでにストーリー性を重視した黒沢清作品って面白いのが有ったっけ?…と。
元々がNHKのドラマだけに、ある程度は見ているお茶の間の人に対して分かり易く…との配慮なんでしょうが。それ自体が黒沢清が黒沢清ではなくなってしまっている、、、としか(u_u)
大体、最後に登場する笹野高史には。原作を読んでいないと「誰これ?」状態じゃないか。
いつその事、登場させる必要すら感じない。
(ドラマ版未見なので。この辺りはドラマ版にて、はっきりと描かれているのかも知れませんが)
本当にもう「どうしちゃったのよ〜!」としか(。-_-。)
3人の共同脚本だけれど、一体誰の責任なんだ!…と。
清よ!頼むから今後はもうストーリー性重視の作品は撮らんでくれ!
大体、適当に撮った方が本領を発揮するタイプじゃないか〜!
原作通りだと。プロローグとエピローグが繋がった事で、福原家の家系は絶える事なく繋がって行った。
戦争に翻弄され、悲しい出来事に見舞われた辛い人生を生きたお婆ちゃん。
それでも写真に写る顔は素敵な笑顔だった。
F I N
…って事で、銀獅子賞ですよ!
今や世界の黒沢ですからね〜!
賞の効果は大きかったのでしょう。
どうやら、観客の多くの方は満足された様子。
こちらの様に、へそ曲がりのおっさん等は少なめなのでしょう。
※ それにしても満席ですよ!満席!
清ですよ清。明じゃ〜無いんですからね〜。
黒沢清で満席だから、ビックリしたのなんの!
上映後に、こんな会話を聞きましたよ、、、
「これ、外国で賞を取ったんだろ!流石に黒澤明の孫だな〜!」(´・ω・`)ポカ〜ン
※ 流石に賞の効果は大きく公開直後は満席でした。
2020年10月16日 TOHOシネマズ錦糸町楽天地/スクリーン12
美しい話ではなかった…
聡子はあまり好きにはなれない女性だった。
彼女は夫、優作へ独占欲「自分だけが夫の志を支えられるんだわ!」ということに酔っているだけで、戦争も正義も実はどうでもいいことのように見えた。もはやウキウキ楽しそうでしたもの…
モデルがあるなら仕方ないか…と思ったが、調べてみるとどうやらフィクション...。
なぜそんな女性に描いたのか?それが意図?
題名から勝手に夫を理解し支える妻をイメージしていたから、感情移入できるとこが見出せずやっぱり好きになれない女性。優作は本当に聡子を愛していたのかしら?
そもそもNHKはどうしてこの脚本をドラマ化し、そして映画化したのか? この映画で描かれていることが事実かどうか不確かだと思うのだが。
動画配信で映画「スパイの妻 劇場版」を見た。
劇場公開日:2020年10月16日
蒼井優
高橋一生
東出昌大
坂東龍汰
恒松祐里
みのすけ
笹野高史
玄理
黒沢清監督
濱口竜介、野原位、黒沢清脚本
主演は蒼井優。
1940年、
商社の社長、福原優作(高橋一生)と妻、福原聡子(蒼井優)は
日中戦争のさなかではあったが、
不自由なく暮らしていた。
優作は満洲に渡航した折に、
日本軍(関東軍)の醜聞、秘密を知ってしまった。
帰国した優作は渡米しようとする。
それを知った聡子は優作を問い詰めた。
何のために?
「私はスパイの妻と罵られようと夫について行く」
そもそもNHKはどうしてこの脚本をドラマ化し、そして映画化したのか?
この映画で描かれていることが事実かどうか不確かだと思うのだが。
ちょうどこの映画を見た2023年7月24日に
森村誠一氏が亡くなったと聞いた。(90歳没)
何という偶然だろうと思った。
満足度は5点満点で3点☆☆☆です。
監督賞というより主演女優賞
とにかく蒼井優の演技につきる。
おそらく演出の指示が出ているからこその
昭和の映画スターのような喋り方になっているのだろう。
指示があるからとそのようにできる
蒼井優の能力は大したもの。
しかしそれが蒼井優だけで、夫や周囲の人物達は
そうじゃないのはなぜなのだ?
お手伝い以外はろくに関西弁でさえない。
神戸舞台の話だというのに。
星の数は蒼井優に捧げるもの。
幼なじみ将校は東出じゃない方が良かった。
彼の不倫には興味はない。
単に、あの役は特別見た目がよくない方が効果的に思うし
もっと不気味さを漂わせられる演技力のある俳優にして欲しかった。
ストーリーは面白い部類だろうとは思う。
個人的には随所で先の展開は読めた。
いろいろ惜しいと感じる点が多い。
それもつまらなければ惜しいとは思わないので
及第点は超えてる。
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