「お金を払って、騙されて、死にそうになって、逃げるしかない。」FLEE フリー chappieさんの映画レビュー(感想・評価)
お金を払って、騙されて、死にそうになって、逃げるしかない。
アフガニスタンに暮らす男性が、戦争と圧政から逃れるために、密入国業者に法外な金を払っては騙されながら、途中の経由国からは弾圧されながら、なんとかスウェーデンに達する話。実在の人物のインタビューに回想シーンが重なっていく構成。そのすべてがアニメで表現される。
貧しいがそこそこ自由に楽しく暮らしていたアフガニスタンの少年とその家族。
だんだん過激なイスラム原理主義者が勢力を増してくるのがニュースで伝えられる。大統領はソ連の助けを借りて治安を守ろうとする。ところがそのイスラム過激派「ムジャヒディン」にアメリカが強力な武器を渡し始め、ソ連やアフガニスタン政府は苦戦する。治安もどんどん悪くなり、若者たちは徴兵されていく。徴兵されるとほぼ帰ってこないので、若者と家族は軍に入るのを拒んで国を逃げ出そうとする。崩壊が迫ったソ連が撤退すると、アフガンの治安は最悪となる。
父親が国を先に出てヨーロッパに渡り、アルバイトで金を貯めては大家族を1人ずつ、密入国業者に金を渡してヨーロッパに呼び寄せる。主人公のアミンもそうやって、異国にいる父が手配した密入国業者を頼っての脱出行、安いが故のずさんな手引きで死と隣り合わせの旅。密入国業者に頼るしかないばらばらの家族。
母国アフガニスタンの政府は、自分を軍隊に入れて死に至らしめるだけ。国を捨てようにも入国を受け入れてくれた唯一の国ロシアは、崩壊後でどん底に貧しく警察は腐敗して自分たちを暴力と搾取の対象にするだけ。さらに逃げ出そうとするが、バルト三国や他のヨーロッパ諸国も難民を受け入れようとしない。行き場のない、希望すらない、ただただ遠巻きに眺められながら放置されるアフガンの人たち。
その恐ろしさと絶望が延々とつづく。さらに主人公のアミンはゲイなのだ。そのことを家族にすら伝えられず、さらに苦しむ。
こんなに希望のない状態に置かれた人々がいたのかと愕然とする。ぼくたち日本人は彼らに比べたら、何万倍も恵まれているように感じたし、僕らが見聞きするニュースは彼らの現実とは正反対だった。
僕らもまた西側のイデオロギーの中にいて、支配し排除する側にいるのがよく分かった。ほんとに苦しい映画だった。
受賞を逃しはしたけれど、2022年の米国アカデミー賞で、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門でノミネートされたのも納得の、訴える力のある作品だった。