「Fleeし、Freeを得るまで」FLEE フリー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
Fleeし、Freeを得るまで
昨年のアカデミー賞で国際長編映画賞・長編アニメ映画賞・長編ドキュメンタリー映画賞に史上初のトリプル・ノミネート。
デンマーク映画(スウェーデン・ノルウェー・フランス合作)なので国際長編映画賞ノミネートは分かるが、アニメ映画賞とドキュメンタリー映画賞にもノミネートって…?
祖国アフガニスタンからデンマークに亡命した男性が友人の映画監督に自身の過去を語るドキュメンタリー。
個人の安全を守る為、アニメーションで表現。
過去シーンはアニメーションでドラマ仕立て。
ニュースなどは実録映像。
様々な演出や表現を駆使し、そうしてまで伝えたかった、画期的で渾身の力作である。
タイトルの“フリー”とは“自由”とばかり勘違いしていたが、あちらは“Free”でこちらは“Flee”。“逃げる”という意味。
フリー(Flee)し、フリー(Free)を得るまでの壮絶な体験記。
アミン・ナワビ(仮名)。
1980年代後半、母・兄・姉とアフガニスタンの首都カーブルで暮らしていたが、平穏な日々は突如終わりを迎える。
軍に勤めていた父は当局に連れて行かれ、消息不明。今も再会を果たせていない。
兄はスウェーデンへ亡命。
アフガニスタン紛争。武装勢力の侵攻。
一家はロシアからスウェーデンへ亡命を図るも、観光ビザでは困難。不正規ルートで行くしかないが、費用が足りない。
難民への偏見、不当な逮捕、暴行…。
費用が貯まり、小船で北海を渡るルートに参加するも、頓挫。
再び費用を貯め、偽造パスポートで出国。が、スウェーデンではなくデンマークへ。家族と別れて…。
デンマークで難民として受け入れられるも、自身のこれまでを語る事を禁じられる。その苦悩…。
抜粋するとこんな感じだが、実際は文章では言い表せないほどだったであろう。
家族と引き離される。
難民として各地を放浪。
不条理な仕打ち。
時には生死の危機…。
個人の体験ドキュメンタリーなので、実録映像が残されている訳も無い。
ドラマ部分を実写でやっても良かったが、ドキュメンタリーから急にドラマ仕立てになると再現Vみたいで違和感。ヘビーな内容にもなる。
アニメーションは個人の安全を守ると同時に、作品の作りに一貫性を与えた。
アニメーションだからヘビーな内容を幾分かオブラートしたとも言えるが、いやいやアニメーションでもこの壮絶な体験記は胸に突き刺さる。
『戦場でワルツを』や『トゥルーノース』を思い起こす…。
アフガニスタン難民のドキュメンタリーでもあり、アミン個人の人生ドラマでもある。
幼い頃より自身が同性愛者と自覚。部屋に肉体派スターのポスターを飾ったり。(ヴァン・ダム!)
家族にはずっと隠し続け…。
デンマークに亡命して何年も経ってやっと、スウェーデンの兄とその家族を訪問。再会。
そこで、自分が同性愛者である事を遂に知られる。
兄にある場所へ連れて行かれる。国によっては同性愛は罪…と思いきや、粋な計らい!
学術の道に進み、パートナー男性との結婚を望むが…。
日本人には馴染み薄いただの難民ドキュメンタリーに非ず。
祖国を追われ、家族とも離れ離れになった一人の男が、パートナーと巡り合い、やっと安住の地と幸せに辿り着くまで。
見終わって本当に思う。辛かった。長かった。そして、ああ良かった。
アミンと監督ヨナス・ポヘール・ラスムセン。(監督もユダヤ移民)
語り、伝えてくれた事に、感謝と敬意を。