「アニメでしか描き得ないという状況から生み出された、印象深い一作」FLEE フリー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメでしか描き得ないという状況から生み出された、印象深い一作
あえて滑らかさを排したアニメーションと、時に言い淀みながらも懸命に言葉を紡ぐさまがいつまでも印象に残る作品です。
主人公がカウンセリングを受けるように自らの出自を話し始めるところから物語は始まります。その語り口は決して流暢ではなく、言葉に詰まったり、言い直しが加わったりするため、語り手はアニメーションのキャラクターではなく、まるで実在の人物が台本もなく、思いつくまま話しているかのように感じます。実際のところ本作には、証言した人の素性が分かると本人やその周辺の人々に危害が加わるかも知れない、という切迫した要因があり、当初予定していた実写のドキュメンタリー映画という形式から、アニメーション作品として制作することにした、という事情があります。確かに、戦火を逃れた難民、というだけでなく、様々な意味でマイノリティとしての自らを引き受けざるをえない主人公であることが明らかになるにつれ、その意図が十分理解できるようになります。
昨今のアニメーションを見慣れている眼からすると、一見するとキャラクターの動きはいくぶんぎこちなさがあります。これは恐らく、本編で展開する様々な凄惨な状況を描く際に、できる限り生々しさから派生する心理的衝撃性を弱めつつ、しかし状況についてはなるべく克明に伝えるため、あえてぎこちなさを残しているためだということが分かります(時折抽象的な表現が用いられるのも同様の意図があると感じました)。
ただし、「様々な事情により、アニメーションという手法をとった」という経緯があったとはいえ、ポスターなどの作品イメージからも明らかなように、その表現方法、技法は極めて高度で、かつ実に多彩な人々が、表情豊かに演技しています。このように本作は、高度なアニメーション表現を駆使しつつ、その背後にある”語り得ないもの”の深淵を感じさせるという点において、特に強烈な印象を残す作品となっています。