「私達も結局観客の中の一人」FLEE フリー せつこんさんの映画レビュー(感想・評価)
私達も結局観客の中の一人
アフガニスタンから逃げて、現在はデンマークで仕事も成功し、婚約者もいるアミンがデンマークに来るまでを振り返るドキュメンタリーアニメ。
全編ほぼアニメだけど、アミンの語りや取材の音声は実際の音声で、現在のシーンもアニメで描かれてるけど恐らく取材中の様子そのままなんだろう。アニメという空想の世界を描ける語り口なのにすごくリアルという不思議な感覚。
難民問題の映画ではあるけど、メインは過酷な亡命を経験したアミン自身の心についての話。自分のことをあまり多くは語らないアミンは婚約者にも自分のキャリアや2人の今後など大切なことを話せない。アミンのそのクセは亡命生活において培われた自分を守る壁。
難民問題を扱った話は数あるけどここまで難民個人の心に目を向けた作品はあんまりなかったように思う。それも監督がアミンの高校時代からの友達だったからできたことなんだろうな。友達を撮ってるドキュメンタリーって眼差しが暖かくて好き。『行き止まりの世界に生まれて』っていうドキュメンタリーと共通点を感じた。
そういう暖かい視線の一方で、目の前に困っている難民がいるのに何もしない"見ているだけの私たち"を鋭く批判してくる場面もあって良かった。難民たちと一緒に大海原の船に閉じ込められたような体験をさせられてこの人達と同じ気持ちだ!と思った後に、クルーズ船に乗る見ているだけの人達が出てきていくら共感したとしても所詮自分たちはこの乗客達と同じなのだと気付かされる。映画館の椅子に座って見ているだけの"観客"に過ぎないことを。
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