劇場公開日 2021年3月26日

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「父親の心の移ろいが、実にしみじみと味わい深い」旅立つ息子へ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5父親の心の移ろいが、実にしみじみと味わい深い

2021年3月26日
PCから投稿

どちらかというとスローな映画だ。冒頭から瞬時に観客の心をかっさらう事はない。とりわけ父親は、息子への慈愛に満ちた表情とはまた違い、人との間に少し距離を置く性格のよう。デザイナーとして名を馳せた仕事も、それからプライベートの面でも、何かとこだわりが強く、ついつい意固地になってしまいがちだ。そんないろいろあった彼が息子と共に放浪しながら「いま、ここ」を見つめる数日間。それに合わせて我々も、少しずつ、その内面や過去をうかがい知ることとなる。この一歩一歩が非常に味わい深い。そして自ずと理解できるのは、この人は決して器用ではないものの、それでも懸命に、実直に歩んできた人なのだ、ということ。あの”映画スター”の名前がこれほど胸に響くのも、我々観客と共に築き上げられた関係性の賜物だ。息子からの目線をこれほど凝縮させた言葉は他にないだろう。ラストシーンに交わされる会話がまたいい。しみじみとした余韻が残る。

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牛津厚信