「酒は楽しい人生の薬(副作用あり)」アナザーラウンド ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
酒は楽しい人生の薬(副作用あり)
中年男性がお酒の力を借りて冴えない人生を立て直そうとする話。
コメディではあるが爆笑する類のものではなく、くすりと笑うレベルのおかしさ、日常レベルのハラハラ感と仲良し中年達のほっこり感、その中にシリアスなエピソード(割と深刻)が点在する感じ。
デンマークでは、アルコール度数16.5%以下の酒は16歳から購入可、18際以上なら店での飲酒も可能だそうだ。高校生が飲酒したり、教師と飲酒量について語り合うシーンに否定的な雰囲気がないのはちょっと新鮮だった。
血液中のアルコール濃度を0.05%に保つことでより高いパフォーマンスを発揮する……素人のそんな実験がどういう帰結になるかはお察しである。
学校の教師である彼らが職場でこそこそお酒を飲むものだから、いつ彼らが社会的地位を失う羽目になるか心配しながら見ていた。案の定この実験を始めた4人はうまくいくことばかりでなく色々失敗もするのだが、それでもこの作品、やっぱり仕事中の飲酒はよくないね、というスタンスでは全くない。酒飲みをジャッジするのはこの話の主眼ではない。
ヴィンターベア監督は、本作を「人生を決めつけないことについての映画」と表現している。人生も半ばを過ぎると、この先自分の力で大きく人生が変わることはないのでは、と無気力になったり、投げやりになることもあるだろう。そんな時にはお酒の勢いを借りてもいい、人生を楽しむ姿勢を忘れないことが大切。そんなメッセージが、枯れかけた中年男性マーティンが人生を前向きに捉え直すまでの道程に詰まっていた。
本作のデンマーク語原題は「Druk」、「大量飲酒」といった意味だそうだ。英題「Another Round」は、「もう一杯」とお酒のおかわりを頼む言葉。個人的にはこの英題、充実した生き方をもう一度取り戻そうとするマーティンの姿に重なる部分があってなかなか好きだ。
枯れかけたと言ってもマッツ・ミケルセン。枯れた風情までが魅力的で、職場も家庭もぱっとしない親父にはとても見えない(色眼鏡)。ダンサーの経験に裏打ちされた身体能力を突然発揮するシーンがあったりして、目の保養になった。
作中とっても美味しそうな描写でたくさん出てくるお酒や、酔っ払った仲良しおじさん4人組のわちゃわちゃも何だか楽しい。こっちまで一杯ひっかけたような気分になってくる、ちょっと不思議な感覚もある映画。