「少なくとも私には、地獄をもとめているように見えましたが。」本気のしるし 劇場版 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
少なくとも私には、地獄をもとめているように見えましたが。
「なんだこの女は?!」それが、浮世に対する当初の印象だった。いつからだろう、この女の行動を理解するようになり、その環境を憐れみ、そして物語が急展開のあとからは、この女を応援していた。おそらく、ここからの役柄を踏まえての土村芳なのだろう。これが桃井かおり的(例えにだす女優が古くて恐縮)キャラだったら、お前の自業自得でしょうが、と感情移入はしづらかったことと思う。
「お前はずるいね」そう思いながら、辻を見ていた。人を本気で愛することができず、けして距離を縮めることもない。たぶん、愛されることなく、裏切られるほうが多い人生を生きて来たんだろう、そう思った。
辻が浮世に惹かれたのも、たしかに「自分でもわからない」ことだったのだろう。脇田の言うように、いい女だから放っておけなかったのは確かだろうが、他者に対する興味がなかった自分がなぜか浮世が気になって仕方がないことは自覚している。でも、それが性的対象ではないと自分に鎖をつなぐように、抱くことはしないのだ。ほんと、面白くない。ただし、その「面白くない」があるからこそ、この二人の行く末が気になってしまう。どんな地獄をみるのだろう?と。そう、脇田のように。
この映画、ひどい奴ばかりが出てくるじゃねえか、と思う人にはホントつまらない映画だろう。けっこう、みんな狡いので、見ていて厭になってくるだろうから。でも、みんな悪人になり切れない。それは人を助けてあげようという優しさではなく、自分可愛さゆえの言い訳のような些細な罪滅ぼしでもある。だけど、そんな人間の浅ましさは、誰にでも持ち合わせているものではないか?自分がこいつの立場になってみたら、どう感じるよ?
・・・・そう、こいつの立場になってみたら。
そのとき、あれ?あれ?こいつら、立場がズレてっている...。それに気づいた時、ぞっとした。立場が逆転ではなく、ズレ。スライド、とでもいうか。でも、当の本人たちにはその自覚がないようだ。ああ、なんて悲しいのだろう、人の心というものは。寄り添おうとする人間を、いともたやすく突き放す。それが無私の心情であろうがなんであろうが、自ら心を開かない限り、二人が分かり合うことはない。そんな人間関係の悪しきループをながめながら、涙がこぼれてきた。
途中休憩をはさむ長時間、だれ場を感じることなく、見事な人間劇場でした。