劇場公開日 2020年9月4日

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「感慨深い作品」海の上のピアニスト イタリア完全版 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0感慨深い作品

2020年9月13日
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鑑賞方法:映画館

 船はどんなに大きくてもその範囲は限られている。陸地での生活に比べると船での生活は狭い世界のように思える。主人公1900は生まれてから死ぬまで一度も船を降りることがなかったという作品紹介の通り、人生のすべての時間を船上で過ごした訳だが、作品の世界観は決して小さくない。船とそこで仕事をする人々、旅をする人々のすべてと世界との関わりまで広がっている。リバティ島を見て「アメリカ!」と叫ぶシーンは、三等客室の苦しい旅をする人々の解放された喜び、目的地に到着した喜びが爆発するようだった。
 船には乗船し合わせた数千の人々が運命共同体として目的地に運ばれる。凪があり嵐がある。事故も起きる。人間関係は単純だが深い。そこには多くの人生が生々しく存在し、主人公はそのすべてを受け止める。
 殆どが船の中のシーンだが、少しも退屈することはない。トランペット奏者の思い出話で語られる形式もいいし、主人公の人生に感動して話を真摯に聞く人たちの態度にも感銘を受けた。
 音楽家は人生を奏でる。奏でられた音楽は聴く人々に響き、その人生を勇気づける。音楽は主人公の人生そのものであった。偶然と必然。人はこのように生命を燃やすものなのかと改めて思わされる感慨深い作品であった。

耶馬英彦