劇場公開日 2021年1月29日

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「その後の令和のリアル『仁義なき戦い』にして、その後の令和のリアル『極道の妻たち』」ヤクザと家族 The Family keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5その後の令和のリアル『仁義なき戦い』にして、その後の令和のリアル『極道の妻たち』

2021年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

まるでドキュメンタリーフィルムのような即物的なタイトルは、本作の荒涼とした殺伐感を表象しています。
不遇の幼少時代を経て社会から疎外され、世間に馴染めず非行化し狂暴化していく一般社会からの脱落者は、いつの時代も常に一定割合は居ました。彼らの受け皿となり、アンタッチャブルな暗黒の世界としてヤクザは、いわば必要悪として已むを得ず認知されてきたのでしょう。見方を変えると、本来、経済付加価値を何ら生み出さない彼らの存在を許容できるほどに、世の中に良くも悪くも無駄な負担を受容する漠然として曖昧な諦念が蔓延れた、古き“良き”時代が長く続いていた訳です。
とっくの昔に高度経済成長が終焉し、バブルが崩壊し、デフレが常態化して停滞した経済状況の一方で、ITが進化普及して社会が1mmの無駄も許さない生産性至上でのシステマティックになり、法秩序の完全運用が徹底し日本社会の、本来結構いい加減だった振幅幅が一気に狭まっていくという、ある意味で生き辛い窮屈な時代が現代でしょう。

本作は、斯様な現状を踏まえ、“ヤクザ”になった一人の若者のビフォアと窮屈な時代のアフターを、淡々と、やや若者に好意的な視点で問題提起した作品です。

いわば、その後の令和のリアル『仁義なき戦い』、であり、その後の令和のリアル『極道の妻たち』といえますが、其処には勇壮で荒々しい侠気は微塵もなく、また情熱的な恋情もなく、ただ静謐で平穏な日常生活に矯正される、逆説的ですが行き場のない悲惨で悲愴な物語が展開します。

前半の「ビフォア」では手持ちカメラにより常に画面が揺れ、何かにつけ興奮し激昂する主人公たちの荒んだ心性を的確に映しながら、ひたすら威勢のいい言動が綴られます。将に“ヤクザ”とはどういう構造かを描いています。比較的低いアングルからの仰角での寄せカットが多いのも前半の特徴で、観客に威圧的な印象を強烈に与えます。
しかし後半、主人公の刑務所出所後ではカメラはフィックスが主体のカットとなり、世間を描く映像風景がガラッと一変し、緩やかなリズムに変わります。ムショ出所時の迎えの車が、ベンツでもレクサスでもなくプリウスだったのが象徴的です。

尚、冒頭ファーストシーンは本作最高の見所です。主人公のバイクが疾走する遠景の引きからパンしながら手持ちに変わり、バイクを停めて葬儀会場に入るのをそのまま追いかけて室内まで付いていく、長回しカットは、久々の見事なエスタブリッシング・ショットです。いきなり綾野剛扮する狂暴で反抗的な主人公の視線に一気に立たされ、感情移入させる、このシーンによって観客は自然にヤクザの道を辿る若者の世界に導かれます。

keithKH