「孤独から救い出された人間が、さらなる孤独へと突き落とされた先にあるもの」ヤクザと家族 The Family DEPO LABOさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独から救い出された人間が、さらなる孤独へと突き落とされた先にあるもの
天涯孤独の主人公が、ヤクザという擬似家族を手にする。
主人公にとってはたったひとつの家族であったため、全力で家族に尽くす。
自らが犠牲になり14年の服役から出所した世界は、ヤクザが生きていけない世界になっていた。
主人公はまたふたたび孤独の世界へと突き落とされるどころか、周囲をも巻き込みどこまでも堕ちていくお話。
▼東海テレビ制作の「ヤクザと憲法」に登場したジャージ姿美若いヤクザ男が見事にカメオ出演
▽眼鏡やキャラクター像をドキュメンタリーに出てきた本人にがっつり寄せて、作品へのリスペクトを感じる
以下ネタバレ気味です
▼孤独だった存在が、家族を手にしてまた孤独になるというだけではなくて、
周囲も巻き込んでそれぞれが孤独になるという構図が痛々しい。
▽主人公は浦島太郎的に、人間性をいきなり変えることは難しいし、自分の存在価値に葛藤することになる主人公の痛みがものすごい
▼市原隼人くんがなんであんな脇役なの?と思ってた冒頭だったけど、終盤で全納得。
▽キャスティングが伏線になってる
▼この映画のおもしろいところは、主人公が様変わりするのではなく、世界が様変わりするというところ
▽主人公はヤクザファミリーに尽くした傍若無人キャラのままで生き続ける浦島太郎のような存在
▽世界がガラッと変わることを描く上で、盃を交わすシーンのザ・ヤクザものVシネマ感バリバリのオープニングが本当に素晴らしい
▽前時代的な視覚表現を使うことで、主人公の青春時代と、そんな時代もあったね的な郷愁を感じさせる
▽そして出所した後の世界で、画面の比率が4:3っぽい感じに変わり色も淡い感じになっているのも、世界が変わったことの効果的な表現
▼北野武が、アウトレイジを当時のタイミングで完結させたのは、ヤクザがもうすでにオワコンであることを察知していたからなのかな
▼ラストの堤防シーンは、見事にコンパクトにまとまってる
▽現実的な流れだったら、焼肉屋息子の親の仇を討ったあとに捕まって、刑務所内で自殺するみたいなのが現実的ではあると思う
▽ヤクザの父親のせいで転校にまで追いやられた娘が、直後に父が死んだ場所に行くというのも、不自然な気がするし、そもそも死に場所を知りようがない
▽つまり堤防のシーンは、
主人公が自分なんて消えてしまいたいと思う心情と、
かつての兄貴を慕いつつも殺してやりたい弟分の心情と、
父を恨みつつも想ってしまう娘の心情と、
父の仇を自己犠牲によって晴らしてくれた焼肉屋息子の心情が交差する
夢の世界なんだなぁと思った
▽単に獄中で自殺しましたというあっさりした見せ方よりも、数万倍胸をえぐるエンディングだと思う。
▼学校に送ってくれるおじさんが自分の父親だと知らずに話すシーンで、
母に会う条件でしっかり小遣いを要求する(ゆする)という頭の使い方ができるのは
父親の血が流れているからという、さりげないヤクザジョーク
▼一発撮りの長回しが多い中でよくあんなに泣けるな綾野剛くんゴイスー。。
▼主人公と親分の別れのシーンが泣ける
▽主人公としては人生史上最も孤独になって周囲にも影響を及ぼしてしまったタイミング
▽親分はそれを知らない
▽それを伝えてしまったら親分はヤクザとして拾ってあげたことを大後悔してしまう
▽自分は幸せに生きていると伝えて逝かせてあげることが親孝行だと思ってたと思う
▽いまが全然幸せではないのに、父親としていてくれた親分に、あたかも自分は幸せに生きているというように感謝を伝えるのは泣けちゃう
▼とはいえ、元ヤクザの人が不条理に苦しんで暮らしているなか、そういう人がエンタメとして消費されることは、それはそれで皮肉
▽映画を通して少しでもそういう人が認知されて、ふつうに働けるようになればいいなと思う。
▽やり直すことを許さない社会はヤバいよ。
▼いちばんの悪はネット警察なんだなぁ
▼エンディング曲の映画に寄り添いまくった楽曲も素晴らしい。
▽それとなく海の底っぽい感じがするし、歌詞も主人公の心情に寄り添ってる
▽救われなかった主人公の救いになる役目を担ってる
▼誰からも見向きもされない存在に徹底的に寄り添うのは、映画や音楽の真骨頂だなぁ