「えんとつ町のヤクザ」ヤクザと家族 The Family kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
えんとつ町のヤクザ
『ヤクザと憲法』というドキュメンタリー映画で今のヤクザ世界をかいまみていたおかげで、物語に入りやすかった。今時ヤクザをやっていても食っていけないという言葉は事実なのだろう。そして、構成員を辞めた後でも5年間という厳しい縛りが待っているのだ。
かつて任侠映画、ヤクザ映画、実録モノといった作品群もヒットしていたけど、これだけヤクザ社会を美化していない映画も珍しい。しかもとてもリアル!アクション中心の作品ならば、まるで虫けらのように人を殺していくのに、この作品は違う。命を奪うことの恐怖、躊躇、虚脱感が漂ってくる。言い換えれば命の尊さまでもがメッセージとして感じられる社会派作品ともとらえることができるのです。
1999年のシークエンスはさすがにやんちゃな雰囲気でしたが、ここでも命を奪われる恐怖を経験した山本(綾野)と子分たち。家族がいないことで親子の盃を交わすこととなり、ヤクザの道を突き進むことになる。女に対しては純情なキャラもかつての高倉健を彷彿させる綾野剛だが、ムチャクチャ強いわけでもない。他に何もできないプーだったからヤクザに誘われ、義理と人情の世界にどっぷり浸かることになるのだ。
暴対法が施行されてからも肩身の狭い思いをする中で、やっぱり抗争や義理・人情は捨てられない。元々シャブには手を出さなかったクリーンさも観客を惹きつける要因だが、復讐の感情だけは抑えきれない。出所後の2019年には柴咲組のイメージの落差も凄かった。組員も激減し、幹部までもがしらすの不法漁猟によって食いつないでいる有様。さらに除籍になってからの産廃業者の若者にネットで拡散・・・
オヤジ(舘ひろし)との家族関係もさることながら、殺された元オヤジ木村の妻(寺島しのぶ)と息子の翼(成年:磯村勇斗)との関係や、由香(尾野真千子)と娘、細野(市原隼人)と妻子の関係もクローズアップされていた。反社と繋がりのある者もみな排除。だったら警察との癒着や政治家との繋がりもあるだろうに・・・と、某元総理にまで憤りを感じてしまった。結局は権力者がその地位を守るためにヤクザも生き延びてたんだから・・・
なんといってもこの作品の完成度はオリジナル脚本の緻密さに加え、役者の好演にも依るところが大きい。迫力ある恫喝や繊細な心、みんな素晴らしい演技。結局、人間の弱い部分も見せてくるから感涙してしまうんだろうなぁ。
最近はいないけど、元ヤクザのタクシー運転手は多かった。大手は刺青禁止だし、接客・サービス業として地位を確立したから、敬遠してしまうのだろう。まぁ、チンピラっぽい運転手はたまにいるけど。
ヤクザが激減して平和になったか?翼の仲間ように半グレみたいなのも増えているし、彼らには義理人情なんてものがないのが普通だから、また藤井監督にも頑張ってもらいたいところ。その翼に絡んだ終盤の展開もよかった。悲しかったけど・・・