「沖縄戦75年目の総括」ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶 h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
沖縄戦75年目の総括
沖縄戦の記録映像については、NHKスペシャル等でもたびたび放送されているので、ここではあえて本作の着眼点や制作目的を意識してみると興味深い点が浮かびあがってくる。
本作では沖縄戦の当事者だけではなく、その親族や沖縄在住の研究者など数多くのインタビューが盛り込まれ、しかも一人ひとりが時間をとってしっかりと見解を述べている。
沖縄戦において、物量で圧倒的に劣後する日本軍は米軍に勝つつもりは毛頭ない。少しでも本土決戦まで時間をつくることが目的であり、住民もその無謀な戦略(「本土決戦までの捨て石」作戦)の巻き添えになっていく。
沖縄戦を総括するうえで、考えるべきイシューはいくつかあるが、本作では「なぜこれだけの被害を出すことになってしまったのか」について総括を試みている。
ちなみにNHKの「沖縄戦 全記録」では、その答えとして、「住民と軍の混在化」をあげている。避難壕や撤退活動において、軍民一体の行動が米軍にとって非軍人の区別がつきにくく、民間人を巻き込んだ掃討作戦(無差別攻撃)に発展していったことをあげている。
一方、本作ではインタビューを受けた人々が盛んに強調していたのが、「皇民化教育」それである。お国のため、天皇陛下のために最後の一人まで「鬼畜米英」と戦い、生きて虜囚の辱を受けることを潔しとしないことを徹底的に叩き込まれる。その思想統制が徹底されていたことは、「あの時は全く疑っていなかった」、と当事者の発言からはっきり読み取られる。
「なぜそのとき疑問に思わなかったのか?」と今なら冷静にみれるかもしれないが、大衆もメディアも日本の大東亜新秩序の熱に取り憑かれ、個人々が置かれている状況をきちんと把握できることができなくなってしまっていたのではないかと思う。
「極度の不安は、明快で強いイデオロギーを受け入れてやすいメンタリティを生む」と20世紀の政治哲学者のHannah Arendtは警告している。
それは、現代の私たちにとっても決して無縁の話ではない。