「社会制度の歪みに切り込む圧巻のミステリ」護られなかった者たちへ しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
社会制度の歪みに切り込む圧巻のミステリ
Amazon Prime Videoで鑑賞。
原作は読了済み。
見事な映像化だと思った。原作の内容を換骨奪胎し、過去と現在を行き来する構成の妙を、映像ならではの表現で昇華している。犯人に関する変更点も、映像化するにあたって許容出来る最低ラインを絶妙な塩梅でクリアしていて膝を打った。
佐藤健をはじめ、阿部寛や清原果耶などの演技巧者を揃えたキャスティングも、物語の重厚さを補強している。全体に漂う痛みと切なさに胸が締めつけられた。かなり完成度の高い、社会制度の歪みに切り込んだ圧巻のミステリ映画である。
生活保護とはいったいなんのための制度なのか。憲法に謳われた「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが困難な国民を助けるための制度のはずなのに、不正受給が横行したせいで、2013年の法改正により審査が厳格化され、本来助けられるべき人たちも取りこぼされてしまうことになった。
さらには、遠島ケイのような生活保護を受けることに躊躇う者の理由につけ込んで、あくまでも「本人の意志を尊重する」と云う建前の下に受給を取り止める。その結果がケイの餓死であり、今回の連続殺人の動機となってしまった。
制度だけでなく、制度を運用する立場の人間への憤りを隠し切れない。しかしながら、役所の生活保護担当も法に則って職務を遂行しているに過ぎない。それが彼らの仕事で、果たして断罪して良いものかどうかとの疑問も生じる。
そこに震災と云う、人間にはどうすることも出来ない要因が重なり、問題はより深刻になってしまった。日本の貧困対策は先進国の中でも劣っている方だと言われる。このままでは日本社会の格差は増す一方だろう。いずれ南海トラフ巨大地震が起これば、今よりも悲惨な状況が現出するように思われてならない。日本はどうなるのか。今の内により良い制度を、誰もが救われる制度を、構築してくれることを強く望む。