「決して他人事では無い、重厚なテーマ。アカデミー賞を受賞しても全くおかしくない。」護られなかった者たちへ 菊千代さんの映画レビュー(感想・評価)
決して他人事では無い、重厚なテーマ。アカデミー賞を受賞しても全くおかしくない。
第45回日本アカデミー賞作品賞ノミネート作品。
ドライブマイカーという素晴らしい作品の陰に隠れてしまったかもしれないが、アカデミー賞を受賞しても全く不思議ではない作品。
「人としての生き方とは何か」生活保護という最後のセーフティーネットを通してその意義を問いかけた佳作!
骨太な作品。フィクションでありながらそのテーマはドキュメンタリーなヒューマンミステリドラマ(と言ってもミステリ要素は話を進める要素に過ぎない)。
東日本大震災という未曾有の災害から生き残ったが、時が経ち生活保護を受けなければ餓死をしてしまうまで追い込まれた・時。
そんなギリギリの状況に手を差し伸べた人たちの気持ち、それはごく当たり前の人としての”正義“だった。そして
それは”愛情”でもあった、しかし・・・。
その”正義”は差し伸べられた相手にとって本当の愛情だったのだろうか?
それよりも、たとえ飢えの苦しみがあったとしても生活保護を受けないことに本当の幸せを感じてしまう人もいる、
”矛盾”・”すれ違い”
もどかしくもありその先にあるそれぞれの人たちの愛情のすれ違いに、<しあわせとは、そして人として健康的で文化的最低限の生活とは何なのか>を今一度考えさせられる。そんな作品だった。
生活保護は解決では無い、本来なら少しでも生活保護を必要としない社会になれば良い事だ。しかし、21世紀になってこの20年あまりひたすら右肩上がりを続け増加している生活保護受給世帯の数・・・これは紛れもない社会の悲鳴の数だ、そしてその様な社会の悲鳴の先に何か光明はあるのだろうか。東日本大震災からの復興五輪も終わったが果たして日本は復興できたのか、そう思ってる日本人が多いとは思えない
平均賃金はこの20年ほぼ横ばいなのに手取りは下がり続け暮らしは一向に楽になどならない。超高齢化社会、年金問題、格差社会の増大「日本は素晴らしい国だ」と言う言葉の幻想ばかりが先行している。幻想ではあってもこの国を少しでも「素晴らしい国」と思って人々は救いを求めてる。戦後復興を果たし世界有数の経済大国になったが今置かれている状況はこの国自身餓死する瀬戸際なのでは無いだろうか、20年後に今を振り返りあの時こうしておけば、そんな風にならなければ良いのだが・・・。
映画を観て、何か他人事では無いざわざわした気持ちになった。
そして、佐藤健があまりにも凄い!天皇の料理番で見せた完全な料理人とはひと味どころか全く違う繊細ながらも切れ味鋭い役どころを見事に演じて見せた。
2021/10/14 22:48