劇場公開日 2021年10月1日

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「本当に困っている人にとはよく言ったもんだ」護られなかった者たちへ サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5本当に困っている人にとはよく言ったもんだ

2021年11月7日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

寝られる

清原果耶が出演しているということで鑑賞。
監督は「糸」の瀬々監督、主題歌は桑田佳祐。全体的に古臭そうで退屈そうな印象。期待はしないでおこう、と思っていたら意外にも評価が良かったのでそこそこ期待して劇場へ。

中々良かった...。
とても面白いと言えるようなテーマではないけれども、かなりよく出来ていた。やるじゃん、瀬々監督。「明日の食卓」も良かったし、もう心配することはないかな笑

東日本大震災から9年。連続して発生した不可解な餓死事件。被害者はいずれも善人と呼ばれていた男たちだった。そんな中、捜査線上に容疑者として浮上したのは利根泰久(佐藤健)だった。

東日本大震災と生活保護という重く難しいテーマを見事にブレることなく描ききっていた。非常に丁寧な脚本で観客を引きつけるし、考えさせられるものがあった。最近、本作の原作者である中山七里の作品で映画化は大失敗に終わってしまった「ドクターデスの遺産」を読んだ。ドクターデスの遺産も本作も本当に掘り下げ方が上手い。中山七里は本質的に物事を見ている。普通考えることの1歩先を描いているため、今までとは違う視点で捉えられハッとさせられる。

豪華キャストの魂の演技。
貧相で愛想悪く、薄汚いが実の心は優しい利根泰久。本当に佐藤健なのか?と思ってしまうほど、役に憑依していた。「るろうに剣心 The beginning」の緋村剣心のようだった。寂しさと苦しさを必死に耐え抜く姿が。
阿部寛と林遣都の刑事役も見事にハマり、倍賞美津子の温厚で優しいおばあちゃんの演技も流石。吉岡秀隆、永山瑛太、緒形直人も繊細な演技で魅了される。
そして、清原果耶は今作でも大きな爪痕を残した。やはり凄いこの女優は。常に輝いている。清原果耶に圧倒され、鑑賞後も彼女の作品を見たいなと思い、家に帰ってNetflixで今年公開された「まともじゃないのは君も一緒」を鑑賞。やはりこの映画最高だし、清原果耶の演技の幅に驚きました。

展開も非常にいいしちゃんと裏切られる伏線回収。
やはり140分近い尺は長かったけれども、それでも続きが気になり釘付けになっていたし見せ方もとても良かった。最後も蛇足と思いきや...でよく出来た作品だなとしみじみ。主題歌の桑田佳祐も雰囲気にピッタリないい味出していて、重厚感のある映画だった。

しかし、人物の描き不足が見られる。
それぞれキャラクターの人物像があまり描かれていない。特に、3人の思い出なんて大して映し出されないし、ここまでなるほどの愛があったのかね?と疑問が浮かんだ。生活保護の2人も、周りが敬うような性格にはとても見えず違和感があった。

幹ちゃんっていくつなの?子供は多く見積って12歳だよね?9年後だったら21歳。んー、なんか不思議。人物像もそうなんだけど、基本刑事目線で描かれるため感情移入がしにくい。感情が揺さぶられない。「そして、バトンは渡された」と同じ雰囲気を感じる。日本人が好きそうなものを詰め込んだ感じが、私的にはあまり気に食わなかった。

まぁそれでも役者の華麗なるアンサンブルが見れたり、深く考えさせられるテーマでグッときたりとなかなかいい作品でした。これも小説版読みたいなぁ...。

サプライズ