劇場公開日 2021年10月1日

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「「健康で文化的な最低限度の生活」とは。」護られなかった者たちへ ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「健康で文化的な最低限度の生活」とは。

2021年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

最初から最後まで集中力が途切れることなく画面に引き込まれていった。シーンごとの密度が高いし演技も絶賛ものである。これは心温まるヒューマンドラマであるとともに、殺人事件を追うサスペンスドラマでもある。物語の中心には、けいさん、利根君、かんちゃん3人の暖かい交流がある。身寄りがなかったり、震災で亡くしたりで孤独という面では共通している彼らが家族のような関係になるのは当然ともいえる。震災が彼らを「家族」にした。けいさんを救えなかった「生活保護」の問題や、利根君の「生活保護」への怒り、かんちゃんの「生活保護」の仕事にかける思いなどこれだけで十分物語になる。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」と言いながら、現実は理想とはほど遠く、救われない者も多くいる。「生活保護」の問題はナイーブで奥深い。支給する側も受給する側も悪い者はいないのにどちらかが悪者になったりする世界である。
ヒューマンドラマとサスペンスドラマの融合はよくあるが、この作品の場合どうだろう。憎しみの感情は理解できるとしても、10年も経ってから復讐に及ぶような事だろうか。生活保護の担当者は悪人ではない。「制度」や「運用」の欠陥の責任を彼らに押し付けただけで、殺害する理由はどこにもない。瀬々監督の作品は、俳優が素晴らしい演技をするが、内容が腑に落ちない場合が間々ある。

ガバチョ