「苦悩」護られなかった者たちへ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
苦悩
1%の不埒者が何を指すのかはわからない。
不正受給をする者なのか、受給を阻む者なのか、それとも全く別の物なのか。
生活保護にまつわる話だった。
震災も絡めてあって、特殊と言えば特殊な状況ではあるけれど、語られるメッセージは、その状況には左右されないもので…非常に重く、先入観や固定観念に縛られてしまう対象者の多様な境遇に、対応の難しさを想像してしまう。
「セーフティネット」そのシステムがあるのは分かる。ただ、そのシステムの財源は湯水の如くは溢れてこない。だからこそ、厳格な取り決めがあるのだろうとは思うが、その厳格さ故に弾かれてしまう人もいる。
もしくは、行政に割振りがあって、これ以上は支給できないって事もあるのではと勘繰る。
善意だけで社会は成り立ちはしない。
いや、だとしても想像で断言するのは無礼極まりない事だ。困窮者に必死になって手を広げている人達をも殺してしまう事になりかねない。
作品は、そういう繊細なバランス感覚を必死に保ち続けてたような気がする。
たぶん間違いじゃない。
監督の絶叫なのか懇願なのか訴えなのかは分からんが、その意図に俳優陣はシンクロし心血を注いだかのような…台本を読むだけでは出てこない心情を垣間見たような気がする。俳優陣は皆様、最高の仕事だった。
「ふざけるんじゃねえ!」
泥水に顔半分浸かりながら吠える。
とあるシュチュエーションに向けられた台詞ではあるが、今となっては作品を代表する一言の様にも思える。
ケイさんが亡くなり三雲に詰め寄る利根。
それに放たれる緒方氏の一言とか。
リアリズムを纏うために行った膨大な準備が作品の隅々を埋め尽くしているようだった。
「死んでいい人なんかいない」
腑に落ちた台詞だった。
とあるメンタリストは、あの発言をする前にこの作品に出会えていたら、その発言に至らなかったかもしれない。
作品の最後に「原理原則を飛び越えて声を上げてほしい」とのメッセージがあった。
ソレが現場の総意ならばこんなに頼もしい事はない。今の原理原則を飛び越える事で広がる、新たな原理原則が生まれるのかもしれない。
ただの体面だけでない事を願いたい。
ラストに息子の死に際の話が出てきて、蛇足にしか思えなかったのだけど…「死んだら終わりじゃない」ってメッセージの一環とも捉えられはする。
必要以上に拘束された物言わぬ死体も、現状を訴えるに足るギミックだった。
慣習や世間体ってのは、ああも雁字搦めにされる要素なのだろう。
そういえばノーベル賞をとった日本人が日本に住みたくない理由に「誰もが他人の視線を気にしてる。自分がしたい事ではなく、した時にどう思われるかが行動する原理になってて生き辛い」みたいな事言ってたな。
映画館を出て新宿の街並みを歩き駅に向かう。
緊急事態宣言が解かれた人混みの喧騒は雑音のように耳障りで空虚で…ネオンがヤケに眩しかった。
過剰な供給。
資本主義と多数決の呪いに埋め尽くされているような…そんな錯覚を覚える。
U-3153さん
コメントへの返信有難うございます。
いえいえ。
U-3153さんがレビューに書いていらっしゃる「人混みの喧騒は雑音のように耳障りで空虚で…資本主義と多数決の呪いに埋め尽くされているような…」(←詩的な文章ですね🤔)を読ませて頂いて、そう感じた事を思い出したので。