劇場公開日 2021年10月1日

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「護られた者から」護られなかった者たちへ aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0護られた者から

2021年10月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

ドラマとしては、かなりの良作。素晴らしいと思う。なのに、なぜか満足感が薄いのはなぜだろう。ひとつひとつが綺麗なパーツの、立体パズルを組んでいったら、これまた綺麗な形にピタリと収まった感覚。ただ、あまりに整い過ぎていて、触れずに置いておきたいような感覚だ。

ストーリーは、震災の心の傷と、その後の貧困問題を取り上げた社会派。それでいて、それぞれ抱える過去があり、震災の同じ傷を持つ登場人物達が、物語に深みを与える。そしてそれぞれの関係が、救いや悲劇を生み出す。展開は綺麗に流れるようで、伏線も収まるところに収まり、しっかり決まっている。

役者陣は最高。阿部寛が、津波で妻と子供を失った刑事笘篠を迫力の熱演。特にラストで佐藤健の独白を受けた後、数刻の沈黙のシーンは圧巻。感情の大きな動きを沈黙の中で伝わって来て、本作の幾つかの名シーンのひとつだ。過去に大きな心の傷を負った青年利根役の佐藤健も、三白眼と稀に見せる優しい眼差しを武器に好演。震災で、唯一の肉親である母を亡くした幹子役の清原果椰が絶品。朝ドラからガラリと変わった雰囲気で、最初はあれ?別人か?と思ったほどの名演は素晴らしい。大女優への道を着実に歩んでいるようだ。幹子の子供時代の石井心咲ちゃんもしっかりしていた。
避難所でそれぞれ孤立していた利根と幹子に関わり、交流し始める"けい"は、倍賞美津子。2人に手を差し伸べ、特に、誰も寄せ付けない利根の閉ざした心を開かせる、自立した老女に、安定感抜群で扮する。
他にも林遺都、永山瑛太、緒方直人などもがっちりと役をこなして隙が無い。

これらの人々から全てを奪った震災と、セーフティネットからも漏れて護られなかった人々という社会の課題。心の傷を負った過去を絡めながら、現在の連続殺人事件を解決していく。いくつもの要素がありながら、構成が巧みで混乱は全くないし、ストーリーも無理なく追える。心揺さぶるシーンも随所にあり、エンドロールを盛り上げる桑田佳祐の主題歌と、どこからどこまで完成度が高い。スタンディングオベーションの要素は満載なのだけど…。

「楽園」「友罪」などを創り、日常に潜む、非日常や闇とのまだら模様を描かせたら天下一品の瀬々敬久監督。完成度はやたら高いが、個人的に相性が合わなかった作品なのかな。

AMaclean