「たいへん勉強になりました」「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ! 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
たいへん勉強になりました
日本の免疫学の第一人者である藤田紘一郎博士によれば、免疫の主役は腸であり、腸の細菌を整えることで免疫力が向上するとのことである。それを踏まえると、免疫の話である本作品が腸を舞台にしているのは、当然とはいえアカデミックな検証に基づいていることがわかる。日和見菌の存在は藤田博士の本を読んで初めて知った。
本作品では一般細胞、赤血球、白血球、ナチュラルキラー細胞、キラーT細胞、樹状細胞、マクロファージなどの免疫系の細胞が擬人化されて登場し、ときに容赦のないその働きぶりが紹介される。免疫はこれら免疫細胞の活躍よりも前に、腸内環境を整えることが先決であることもよくわかった。藤田博士の本の通りである。
単語や解説がバリエーションを変えて繰り返されるのがいい。一度ではわかりにくかった場面も、繰り返されることでよく分かるようになる。この辺りはよく考えられていて、マンガを読んでいない当方にも一度の鑑賞でほぼ理解できた。ちゃんとストーリーがあって飽きずに観られるところもいい。
人間の体は自分で意識していなくとも生命と健康を自ら守っている。1対数万という意識と無意識の関係と同じようで、人間が能動的に体を動かす何万倍も、体内で免疫系が頑張っているのだろう。なんだか有り難い気分になる。
生命というものはとてもよく出来たメカニズムで、多くの細胞が互いに補完しあって複雑で膨大な動きをしている。そしてすべての細胞は一定の周期で破壊されて新しい細胞に入れ替わる。分子生物学の福岡伸一さんが砂で出来た像に例えていた。一見同じ姿を保っているかに見える砂像だが、絶えず吹き付ける砂によって像の細胞が入れ替わっているのだ。
無意識を意識的にコントロールすることはある程度可能である。苦しいときに笑顔を浮かべると、無意識は自分は大丈夫なのだと認識して、苦しい状況に対処できるようになるらしい。腸内環境も同じで、ジャンクフードを食べない、食物繊維を摂るなどを心掛ければ環境を変えることができる。癌にも老化にもある程度は対抗しうる体になれるかもしれない。
人間の体は微生物に弱いが、微生物と共存している面もある。皮膚の常在菌であるブドウ球菌や腸内の細菌がそれである。ちなみにブドウ球菌は悪性ではなく、食中毒を引き起こすのは黄色ブドウ球菌という別物である。ウィルスとは共存していないので、コロナウィルスやインフルエンザウィルス、ノロウィルスなど、人間の細胞内で増殖して体を不調にするウィルスは甚だ危険だ。
ただ、腸内環境がいい人は免疫系に余裕があるからこれらの危険なウィルスに対しても体が対処してくれそうな気がしないでもない。本作品を観終わると発酵食品が食べたくなる。たいへん勉強になりました。