「傷付いたっていい」青くて痛くて脆い 大熊舜さんの映画レビュー(感想・評価)
傷付いたっていい
この物語の趣旨とは、主人公の楓が「傷付きたくない」から「傷ついたっていい」に変化する過程を描いたものです。僕がこの物語を考える上で、着目した点は下記の3つです。いづれも脇役の何気ない一言と漫画示す意味についてです。
◎「人はその時々の間に合わせで人と付き合っているじゃない?」~脇坂さんの言葉~
◎「お前一度、秋好と真剣に話をしてみた方がいい」 ~董介の言葉~
◎ 憎しみは自分に跳ね返ってくること ~パラパラ漫画の示すもの~
◎「人はその時々の間に合わせに人と付き合っているじゃない?」~脇坂さんの言葉~
楓の「秋好は自分を間に合わせに使った」という言葉に対して、脇坂さんが楓に返した言葉です。
続けて脇坂さんは「人は寂しさや悲しさを抱き、その時にたまたま近くにいた人を、間に合わせ人として使い付き合っていくのではないか?人間関係とはその繰り返しなのではないか?」という発言をします。脇坂さんの言う「間に合わせ」とは僕の解釈では、「縁」という言葉に置き換えられるのではないかと感じます。楓が大学でたまたま秋好と出会ったのも何かの縁。楓がその時に抱いた感情と秋好がその時抱いていた感情が二人を引き合わせた。そう考えると楓が秋好の元を去り、モアイを脱退したのも一つの縁であったと思います。この「間に合わせ」という言葉に、人間関係を考える上での核心があると感じました。
◎「お前一度秋好と真剣に話をしてみた方がいい」 ~董介の言葉~
モアイの個人情報流出をネットに晒そうとする董介が楓に、頭を冷やさせる意味で発した言葉です。楓は秋好が自分をモアイから追い出したと思い込んでいます。楓は秋好への憎しみや嫉妬心が増幅し、人や物事に真剣に向き合う姿勢から、どんどん遠ざかっていっていました。「人と向きあうこと」とはすなわち「人と話し意見を交換すること」それにより誤解を解くことだと僕は思います。誤解を生んでいる相手に対して、話し合うことで誤解が解けた、単なる自分の思い込みだったなんてことは、世の中にはたくさんあると思います。
董介は楓にそのことを分かって欲しかった。楓が抱く秋好への憎しみや嫉妬心は、楓の中の単なる思い込みであり誤解だということ。そのように私はこの言葉を解釈致しました。
◎ 憎しみは自分に跳ね返ってくること ~パラパラ漫画が示すもの~
楓がメモ帳に描いていたパラパラ漫画は、走っている人が壁にぶつかり、また走り出し岩を登っていくというものでした。「壁にぶつかる」=「傷つくことを恐れない」ということを象徴しているのではないかと感じました。楓は周囲との摩擦を恐れず「傷つくことを恐れない」秋好の姿を潜在的にまぶしく思っていたのでしょう。自分も秋好みたいになりたいと。だから楓がモアイや秋好に向けられた憎しみや嫉妬の感情は、ある意味で不器用な自分に向けられた苛立ちから来る感情でもあったのだと思います。
僕は物語を観る時に脇役の何気ないセリフなどに着目します。そこに主人公の存在以上の物語の核心が内包されているように感じるからです。一つの参考にしていただければ幸いです。