「ふたつの「空白」」空白 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
ふたつの「空白」
ひとつは、もちろん、青柳店長と花音の二人だけがいたスーパーアオヤギの事務所の出来事です。そこで、いったい何が…女子中学生の花音が血相を変えて走って逃げ出し、青柳店長が、これまた必死の形相で追いかけなければならない何があったのか。その空白です。
スーパーの万引犯は事務所に連れて行かれて、話を聞かれたり、店側が呼んだ警察官が到着するまで待たされることは、そう特別なことではないと思われるのですが、事務所に入る店長と花音を見て、店員の草加部は、ちょっと不審そうな表情も浮かべます。
一方で、後に草加部が別の万引犯を捕まえたときは、事務所に連れて行っていますから、こういう場合、スーパーアオヤギでも、やはり事務所に連れて行くものなのだと思います。
すると、草加部が不審そうに思ったのは、花音が事務所に連れて行かれたことではなく、店長が連れて行ったこと…店長と花音とが二人で事務所に入ったことに不審を抱いたことになると思われます。
なぜ?…それが、ひとつ目の(物理的な・時間的な)空白なのだろうと思います。
もう一つは、価値観の違う者同士の間に生まれる避けがたい(心理的な)空白だろうと思います。
(充が「他の人は、どうやって折り合いをつけているのか」と、)呟いた、その空白。
自分の価値観に固執する充と花音との間にあった(心理的な)空白も小さくはなかったろうと推認されますが、同じように、イルカの形をした雲に感動を覚えたところ(同じ感性を持っていたところ)は、さすがに血は争えず、その空白をいささかでも埋める、せめてもの救いだったと思います。
(追記)
充を演じた古田新太さんは、もともとは舞台の方から映画に入ってきた方と聞きます。彼の迫真の演技があってこその本作であったことには、多言を要しないと思います。