「人と人の間にある距離」空白 tricoさんの映画レビュー(感想・評価)
人と人の間にある距離
正直な所、序盤から過剰な程に神経を逆なでする表現に少し嫌な気持ちになりながら観ていました。
父親としても人としても失格としか言えない添田が暴走して、執拗に自分の感情だけで周りを振り回す姿にうんざりし、
振り回された教師達の保身に走る対応にも、マスコミの過剰なまでのご都合主義な対応にも、スーパーの店員 草加部の自分に酔った傍迷惑な正義感にも。
そして店長の青柳の本心の見えない態度にも。
そもそも本当に万引きしたのか?事務所で何があったのか?過去の痴漢は本当にあったのか?
彼が何かを隠しているのかも判らず、本心はとんでもない悪なのか?も判らず。
この辺りは前半の教師やマスコミのクズっぷりも併せてそういった方向で進みますが、娘が自殺した母親が添田に伝える、弱さに逃げて自殺した娘を責めながら許して欲しいという言葉。
この言葉からやっぱり映画の流れが変わったんだな。と思いながら。
多分、添田にとって娘をはねた女性に対しては本当に無関心、そもそも青柳が追いかけ回さなければそんな事故は起きていない。というだけの認識でしかなかったと思いますし、何度謝られても興味もなかったような。
けれど自殺した娘の母親に謝罪されて、初めて自分が無視を続けた事がどれだけ残酷で、自殺した娘がどれほど苦しめられていたか?を理解したような。
添田にとってはこれがきっかけだったんでしょうね。
自分の感情だけを正当化して生きる事が人に与える冷酷さと、詫びる人間を突き放すことが相手を地獄に突き落とすような絶望を与えるという事を始めて理解できたきっかけのような。
そして、そこまでの懺悔を伴う謝罪であれば、受けた側がその問題を終わらせない限り、延々と謝罪と復讐を続ける羽目になるという事。
自分の非や弱さを認め謝るという事と、他人を理解して寄り添うという事が人間的に欠落していた添田にとって、力で屈服させる以外の謝罪という物に触れたのも初めてだったのではないか?と思いながら。
でも人って解ったからってすぐには変われないんですよね。
だからこそ、添田がタクシーの中でつぶやく「みんな、どうやって折り合いつけるのかな?」というセリフを聞いて、すとんと、これが描きたかった映画だったんだな。と思いながら。
添田にとって、人を許す、受け入れる、理解するというのは、その必要性を判ったとはいえ、どうするべきかも判らずそこでもがき苦しむ。
思いつく範囲で、妻の現在の夫を詰ったことを謝罪したり、かつての弟子を再度受け入れたり、娘の好きだった物に触れたりしながら。
それでもはっきりとはせず、人との接し方を、折り合い。と、妥協のようなぼんやりとした言葉で表現してしまうような。
でも、教えてくれる人がいない中で、自分と格闘しながら人との共存を進めようとする添田にとっては、この言葉は紛れもない本音だよな。と思いながら。
そして、自分の間違いを知り、それを悔い正そうと苦しみながら生まれ変わっていく添田の姿を描くことがこの映画のテーマだったんだろう。と、そう思っています。
だからこそ、添田と青柳が再開し、青柳を初めて許す姿には、グッとくるものがありました。
空白って何でしょう?
ストーリー上の隠された部分、特に青柳に絡む、本当に万引きしたのか?事務所で何があったのか?過去の痴漢は本当にあったのか?という謎掛け的な物のような気もしますが。。。
個人的には人と人の間にある距離。
それを空白のままとするのか、折り合いや愛情、信頼といった物でその空白を埋めるのか?という意味のような気もしています。
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