「冒頭のぐらぐら揺れる全景シーンのとおり」空白 tkryさんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭のぐらぐら揺れる全景シーンのとおり
全編に渡って観客の視点を落ち着かせてくれません。
吉田監督の巧さに脱帽です。
副題である”intolerance”、つまり「不寛容」をテーマとして見事に昇華してくれました。
マスコミと男性教師2人、ネットの中傷者(どれも多少デフォルメ過剰なきらいはありますが…)を除いて、どの人物に対しても一方的な肩入れやヘイトを生じさせないような巧みな視点誘導。
言ってみれば全員が被害者でも加害者でもあると。
加えて、起きてしまった結果やそれぞれが失ったものは取り返しのつかないわけです。それを容赦なく描くので、鬱展開の連続です。
寺島しのぶさん演じるパートのおばちゃんが象徴的ですが、登場人物全員が会話不能、一方的な主張の押し付け、言ってみればコミュ障です。
それを他者との関わりを通じて、世界を開き、ほんの僅かではありますが光明が見えてくるようなラスト回りは、悔しいかな完璧です。
事件の真相を敢えてぼやかした点。これは、まさに大英断ですね。
本作では「正しさ」の押し付けや、マスコミ等に象徴される無責任な糾弾を、ネガティブに描いているわけですから、神様視点での「真実」を描写することはテーマの矮小化そのものとなるわけです。
これは「不寛容」を描く作品なので。これで良いんです。
また、俳優さん達も本当に素晴らしいです。
演者の力量が少しでも足りなければ、バランスが崩壊しかねないところ、すなわち微妙なバランスのうえに成立しているような作品とも言えますが、それを古田さん、松坂さん、寺島さんを中心とした達者な俳優さん達のおかげでキャラクターの実在感が増しています。
個人的に吉田監督のベスト作品なのは間違いないです。
それどころか今年2021年、邦画ベスト候補作品の筆頭だと思います。