「善良なふりをする一般市民の怖さ」空白 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
善良なふりをする一般市民の怖さ
加害者家族と被害者家族。本来は相容れないがどちらもマスコミの報道によってバッシングされるという共通項がある。たとえ殺人を犯した人間だとしても、その家族は事件と何ら関係がないはず。でも加害者家族は責められ、嫌がらせを受けたりする。被害者家族も似たようなものだ。被害を受けたことをアピールしたり、公判での加害者の態度や証言を批判すると、調子に乗ってるとかいい加減許してやれとかのバッシングを受けたりする。なんて理不尽。
スーパーから走って逃げ車に轢かれて死亡した少女の父親と、万引きした少女を追いかけたスーパーの店長。基本的には真相を知りたがる父親が暴走したり、店長を詰問したりしていく。どっちもマトモには見えない。でも、もっと怖いのは興味本位で報道するマスコミと一般市民だ。特に一般市民は、スーパーに抗議の電話をかけたり、スーパーを放火したり、客として利用しなくなったり、誹謗中傷のビラや落書きをしてくる。姿が見えなくて、自分たちが善良であることを信じてやまない。なんて怖さ!
父親が被害者家族で、店長が加害者のような描き方だが、実は真の加害者は車で轢いた2人のドライバーだ。最初に轢いた女性はちゃんと描くが、トラックの運転手は途中から出てこない。ミステリー的な見方をすると、夜のシーンであそこでトラックが止まれるなら、あの子はあそこまで引きずられることはなかった。ミステリーなら、真に悪いのはアイツだ!と、スピード違反か前方不注意で追及される展開になるだろう。でも、本作はそんな映画ではないから仕方ない。
内容は全く異なるが、同日に鑑賞した「由宇子の天秤」とテーマがカブる気がした。正義・正しさ、報道の姿勢、遺族の悲しみ…。現代社会で無視できないテーマだ。本作の方が救いのある終わり方だったのでやや点数を高くした。