「現実とも妄想ともつかないヒロインの焦燥をじっくり見せる古典中の古典」透明人間 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
現実とも妄想ともつかないヒロインの焦燥をじっくり見せる古典中の古典
天才科学者エイドリアンと海辺の邸宅に暮らすセシリアは実は異常なまでに自分を束縛するエイドリアンとの生活に疲弊し切っていた。そんな毎日に耐え切れなくなったセシリアはある夜睡眠薬でエイドリアンを眠らせた隙に逃亡。友人宅に身を寄せ静かに暮らしていたセシリアの元に届いたのはエイドリアンの訃報。絶望したエイドリアンは自殺し、莫大な遺産が遺したことを知らされるが、セシリアは彼の自殺に確信が持てない。そして彼女の身辺に奇妙な現象が忍び寄ってくる。
昨年公開のリー・ワネル監督脚本作品『アップグレード』は世間的にはさっぱり話題にならないB級SFアクションでしたが、オフビートな笑いとさりげなくエゲツナイグロ描写をばら撒きながら『600万ドルの男』へのオマージュを滲ませたドラマにほっこりしていたら最後のどんでん返しに軽快に足元を掬われるなかなかの痛快作。本作もベースにあるのはマッドサイエンティストに人生を翻弄される話ですが、『アップグレード』とは異なる展開でこちらの勝手な予想をシレッと裏切ってくれます。本作ではギャグ要素は皆無、ひたすらヒロインが姿の見えない相手に翻弄される様を冷たくスリリングに描写、全てがヒロインの被害妄想かも知れないと匂わせるような煽りもしっかり効いていてヒロインの孤独感を際立たせてからの畳み掛けるような終盤の展開には唸らされました。
古典中の古典を現実的なスリラーに仕立て上げたのはしっかりとしたSF考証とそして海辺に建つ邸宅のスタイリッシュな内装。正気なのか妄想に取り憑かれているのか判然としないヒロインを体現したエリザベス・モスの演技は『ガール・オン・ザ・トレイン』のエミリー・ブラントを彷彿とさせる怪演でした。