「二転三転の読めない展開」透明人間 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
二転三転の読めない展開
劇場公開が終了間際だったので、滑り込みで観賞。
米ユニバーサル映画の「ダーク・ユニバース」構想を仕切り直した第一段。
一旦プレスリリースされた、ジョニー・デップ版の透明人間も観たかった気はするが、お蔵入り。
そもそも今更感の強かったユニバーサル怪奇映画のリボーン企画。個々独立の路線に変更し、「ソウ」シリーズの脚本家であるリー・ワネルを監督・脚本に起用した効果はあったと思う。
発想が斬新で、雰囲気作りの演出も上手い。先が読めないストーリー展開が楽しめた。
科学者の狂気を単に描くのではなく、夫から逃げ出した主人公が、夫が開発したであろう透明人間ストーカーによって精神的に追いつめられていくという、捻りがきいた物語。
映画は、この物語の根幹を形成しているはずの3つのポイントを見せていない。①透明人間の研究開発、②主人公が夫から逃走する原因、③夫兄弟の確執。
だから、結末の意味は観客の解釈に任せられている。
映画の序盤で、意味深にカメラが誰もいない室内をパンして見せる場面が何回かある。透明人間の映画であることは周知のことなので、観客はそこに透明人間がいるのではないかとドキドキする。
主人公が友人宅に身を寄せてからは、夫が透明人間なのだろうと観客は想像するのだが、夫が眠らされていた冒頭の脱出シーンでも同じような演出があった。
つまり、夫以外の透明人間があの段階からいたことになり、それは夫の兄だということになる。
夫の兄は弟の言いなりだったのか、逆に夫が兄に支配されていたのか…
後者だと考えると、結末はより恐ろしいものになる。夫の証言と警察の見立てが正しかったことになり、主人公の行動が確信だったのか誤解だったのかに論点は移る。
主人公は、どこかの時点で夫兄弟に主従逆転が起きたことを確信したのではないだろうか。
夫のことを恐れ恨んでいたことは事実だから、兄に拉致監禁されて弱っていると見た主人公は夫への復習計画を考えたのではないか。そして、最大の目的は遺産相続に違いない。
計画完遂後の主人公の表情が、それを物語っていると思う。
辻褄を合わせようとすると、どう解釈しても矛盾はあるので理詰めは難しいが、色々と想像する楽しさを残してくれる映画だった。
意外な展開で観る側を惹き付ける。先を予想させないための布石が矛盾を生むあたりは、ダリオ・アルジェンドの全盛期を彷彿させる。
主演女優は、配信ドラマ「ハンドメイズ・テイル 侍女の物語」のエリザベス・モスだった。観るまで知らなかった。あのドラマも異様な空気感があった。
精神の異常を疑われ始めてからの彼女の演技は、独壇場と言って良い。むしろ彼女の方が怖いくらいだ。
『チェンジリング』のアンジェリーナ・ジョリーを思い出した。