「見えない恐怖」透明人間 テツさんの映画レビュー(感想・評価)
見えない恐怖
いやーこれは面白かった!!
執念深いストーカー夫+透明化がここまで恐ろしいことになるとは!
見えないからこそ、居るか居ないかも分からない、それを誰にも信じてもらえない。しかし、彼はすぐそこに居るかもしれない…透明人間という古典SFな題材を現代的なアレンジと襲われる恐怖という視点で描いた傑作スリラー作品
主人公は女性、透明人間の恐怖に苛まれる側の視点から精神的に追い詰められる恐怖をヒシヒシと感じる作品になっていました。
エリザベスモスの熱演により、追い詰められる主人公、セシリアの焦燥感とひっ迫感が見事に表現されており、特に眼の演技が(メイクも含めて)良かったなぁ
透明人間というSFじみたファンタジーのような存在に現代的なアレンジを加え、よりリアルな恐怖として画面に現れる。
さらに執念深いストーカー夫というサイコなキャラクターとジリジリと彼女を孤立させ追い詰めていく様も恐ろしい。
前半に出てきたアイテムや写されたモノが後半に活きてくるという(予測通りと言えばそうだが)展開や恐怖を煽る音響、些細な音が不穏さを増す演出などスリラー映画の王道演出もつぶさに押さえつつ、どこに居るのか見えない恐ろしさをさらに盛り上げてくれる。
見えない恐怖だけでは無く、見えないからこそもたらされる孤立や精神的圧迫を描いたスリラー作品だ。
冒頭、セシリアが夫エイドリアンの屋敷から脱出出来るかどうかの緊張感もハラハラとさせてくれるし、車のガラスを割るというエイドリアンの暴力性も見せてくれる。
セシリアは表に出るのも恐怖を覚えていたが、エイドリアンが自殺し遺産を相続。彼の死に拭えぬ疑問がありつつも、お世話になっている親友ジョーンズの家族の為にそれを使うが…脚立や消火器など後々使われるアイテムや既に彼が居ることを示す包丁の動き(ちゃんと画面中央に置いてるのが素晴らしい)なども見逃せない。
また、透明な彼は彼女を孤立させる為に周りの人間へと危害を加え始める。中でも、妹へ送った酷いメールで仲違いさせる様は透明人間という存在でなくとも起こりうるリアルさがある。アカウントの乗っ取りや成りすまし、パスワードの流出で我々の身にも起こりうる(メール1つで仲違いが生まれることも含め)恐ろしさが表されているのもまた現代的な題材だと感じた。
無数のカメラが動き回る、異質かつ不気味さのあるデザインと光学迷彩スーツという男の子心をくすぐるような存在は透明人間にリアルさをもたらしてくれるよう。
ついには、彼女の妹を殺しその罪をセシリアに着せるという手段に出たが、精神病院へと送られ、追い詰められた彼女にさらなる衝撃が…ここで何故彼女が執拗に狙われるのか、新たな事実が判明する。それは拒否していたはずの妊娠。避妊薬がすり替えられていたのだ。それに協力していたのは、エイドリアンの遺産手続をした兄のトム…だが、彼女の反撃が始まる。
さて、この辺で少しだけツッコミ処を。
透明人間であるエイドリアンの執着するところは分かったものの、結局彼女を、子供をどうしたいのかよく分からないんだよなと感じました。こんな風に恐怖で支配した所で…まあそこも分からなかったということか…
あとはセシリアの行動もイマイチ。確かに追い詰められ孤立していたとは言え、もう少し対策を練れば彼の正体を周りの人間な分かってもらったり反撃も早めに出来たのでは?なんて思ったりもしました。
で、セシリアは自殺のふりをして、停めに入ったヤツをペンでめった刺し、ついに透明化スーツも故障気味になり他の警官たちにも存在が確認されたが、透明を活かし警官たちを翻弄していく。
ここの透明人間に翻弄される警官たちのシークエンスは見ていて面白いルックだし、見えない敵に襲われる感じは「プレデター」も思わせる。
終盤では、ジェームズの娘を狙った透明人間との対決、やっと出てきた消火器で相手の姿を確認し、銃で決着…と思いきや透明人間はエイドリアンではなくトムであり、エイドリアンは監禁されていた…しかし、セシリアはそんなことはないと感じており…
ラスト、セシリアはエイドリアンを自殺に見せかけて殺した。彼の開発した光学スーツを利用して監視カメラも把握した上で完全犯罪を成し遂げたのだ。
あのスーツがもう一着あることは彼女(とジェームズ)しかしらない。見事だ。彼女は透明人間よりも恐ろしいかもしれない"見えない殺意"を持って全てに決着をつけたのだ。
そのなんとも言えない余韻も含めて、透明人間という存在を新たな視点と現代的なアップデート、世相の反映をを施し、サイコスリラーとして存分に楽しめる作品!