劇場公開日 2020年7月10日

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「本年度の、「○○○映画」の暫定一位に決定。」透明人間 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本年度の、「○○○映画」の暫定一位に決定。

2020年7月12日
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鑑賞方法:映画館

本作は、DV気質の科学者の元から妻が逃走するところから始まります。取り残され、悲嘆のあまり自殺したと思われた彼が、ある奇想天外な方法で生きていた!と展開していく訳ですが、ネタバレに注意しようにも、表題でバレてますね。

H.G.ウェルズの同名小説を原作とし、作品としては1933年公開の『透明人間』の現代的なリブートという位置づけになる本作では、『攻殻機動隊』などでおなじみのある技術を使って透明化が可能となったという設定になっています。現実にも実用化されつつあるこの技術を、道徳観が欠如した人間に委ねたらどうなるか…、という問い自体は、原作とも共通した古典的テーマではありますが、今回の科学者は、異常さという面ではかなり仕上がった感があって、およそ観客が共感を抱く余地を持ち合わせていません。

主人公セシリアはそんな彼に様々な手法で追い詰められていく訳ですが、周囲の理解も得られず精神的追い詰められていく様は、SFというよりも、映画『ガス燈』が描くような心理サスペンスそのものです。この主人公の痛々しさと、狂った研究者許せん!という怒りが作品の駆動力となっていて、そこにさらに「相手に常に監視されている、忍び込まれている」という恐怖が作品の緊張感を増幅しています。

心理サスペンスはしばしば煮え切らないような、後味の悪い結末で終わることがありますが、本作の制作陣はそこまで底意地は悪くありません(むしろ観客に対して親切すぎて、結末の重要な伏線がバレバレとなっているということも…)。個人的には、今年度(勝手に認定)の「ざまぁ…っ!映画」部門の暫定一位に相応しい結末でした。

本作は、左右対称の構図を多用とした映像の美しさが非常に印象的で、さらにごく微細な物音が物語上非常に大きな意味を持っています。是非とも音響の良い映画館でご鑑賞を。

yui