「金を払って2時間拘束されて不快感を抱きたい方にオススメ」大怪獣のあとしまつ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
金を払って2時間拘束されて不快感を抱きたい方にオススメ
ネタでも観に行くのはオススメしない。今は他に観るべき傑作映画が数多く公開されている映画観るには最高の時期ですので、こんな映画に金を払って2時間苦しい思いをすることは無い。同じ金額を払うのなら、絶対に他の映画を観るべきですよ。
以下、レビューに入ります。
本作の公開初日、「令和のデビルマン」という言葉がTwitterのトレンドワードになりました。
実写版『デビルマン』といえば「伝説の糞映画」と称されるほどの作品で、映画ファンで知らない人はいないレベルで有名な作品です。そんな『デビルマン』と比較されるほど、本作は実際に鑑賞した方々からの反応は芳しくありませんでした。
しかし、『デビルマン』も本作も、どちらも鑑賞した私は言いたい。
「『大怪獣のあとしまつ』は『デビルマン』よりはマシ」であると。
しかし、同時にこうも言いたい。
「『デビルマン』も『大怪獣のあとしまつ』も観ないに越したことはないけど、やむを得ずどちらか観なければならないなら迷わず『デビルマン』を観た方がいい」と。
本作には激烈に酷いシーンとか話題にしたくなるシーンがあまり無いので、観終わった後に観た人同士で語り合いにくい映画です。一方で『デビルマン』の方は笑っちゃうほど酷いシーンがいくつもあるので、話題に事欠きません。そういう意味では本作は『デビルマン』以上に観る価値の無い映画ということになります。
本当に、毒にも薬にもならない映画でした。オススメはしませんが、今ならネットで話題になっているので鑑賞してネットの祭りに乗っかることもできるので多少観る価値もあります。ただ、多分一カ月もすればこの盛り上がりも収まるでしょうから、今観ないならもう観る必要はないですよ。
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ある日突然出現し、人類を恐怖に陥れた巨大怪獣。通常兵器が全く効かず、人類に成すすべなしかと思われた矢先、突如現れた謎の光によって巨大怪獣は死亡する。大怪獣の死亡に安堵した人類だが、今度は「怪獣の死体をどうするか」という問題を抱えることになる。死体処理の責任はあちこちたらい回しにされた挙句、内閣総理大臣直轄の特殊部隊「特務隊」に所属する帯刀アラタ(山田涼介)に白羽の矢が立てられた。
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ギャグは一つも面白くないし、品性を疑うような下ネタがあるし、デリケートな国際問題を無作法にイジるような描写があるし、過去の特撮のオマージュがあるのに特撮への愛や過去の作品群への配慮も感じられない。何より今でも爪痕の残る東日本大震災や福島第一原発事故や、現在進行形で世界中で被害が広がるコロナウイルス感染症を想起させるような描写が小ネタのように出てくるところとか、笑えないどころか心底不愉快になります。
劇中に頻繁に『シン・ゴジラ』を想起させるようなシーンが出てきたり、ラストシーンではまんま『ウルトラマン』のシーンが出てきたりするなど、過去の特撮映画の(若干皮肉っぽい)オマージュが随所に観られます。それらの作品のファンほど不快になるような描かれ方になっているので、「特撮ファンからの酷評が激烈」という、レビューの風潮には納得感があります。
「怪獣の死体処理を描いた斬新な作品」と、予告映像などでは自画自賛していますが、柳田理科雄氏の著作『空想科学読本2』、ギレルモ・デル・トロ監督の映画『パシフィック・リム』、少年ジャンプ+で連載中の人気漫画『怪獣8号』など、怪獣の死体処理の描写がある作品は数多くありますので、「死体処理を描いた作品だから斬新」というのはちょっと違うような気がします。「死体処理で映画一本作る」ってのは初かもしれませんが。
予告編を観て期待を抱いて鑑賞した場合は、多分期待を裏切られると思います。「怪獣の死体処理はどうするのか」をリアルに追及する怪獣死体処理大喜利が観られるかと思いきや、下品な下ネタと薄っぺらいラブロマンスと不快な政治ネタが続きます。
三木聡監督のファンの方が「ナンセンスギャグを連発するのが三木監督の持ち味だが、本作はギャグの手数が少なくて面白さが減衰している」と語っていました。私もそんな気がします。三木監督の『時効警察』は何度か観たことがあって、結構面白かった印象があります。『時効警察』は細かなところにもネタが仕込まれていたり、矢継ぎ早にネタが繰り広げられるなどの特徴がありましたが、本作『大怪獣のあとしまつ』はそういうギャグの絶対数があまりに少ない印象です。だから、正直笑えない。
そもそも三木監督の面白さと、観客が求めている面白さが違うのも問題だと思います。これは三木監督ではなく予告編を作った人が悪いんですけど。
予告編だと大怪獣の死体を巡る特撮のように観えますが、実際は完全に三木監督の「いつもの」ナンセンスギャグ映画です。特撮を求めて見に来た人が「思ってたのと違う」と幻滅するのが目に見えています。
「監督が三木監督なんだから、ギャグ映画になるのは目に見えていただろ」と擁護する方も見受けられましたが、監督の名前を確認して映画を鑑賞する人は多分少数派でしょうし、ましてや三木監督の過去作や作風を知った上で鑑賞する人なんて更に少ないですよ。年間100本以上映画を観る私ですら、三木監督の映画を観たことはありません。「三木監督だからギャグなのは目に見えていただろ」という擁護は、多くの観客には「知ったこっちゃない」ことです。
あと、細かなディティールも気になりました。
大怪獣の死体を撮影した環境大臣が会議室でその写真をモニターに映すシーン、「うわー!大きい!」と同席の大臣たちが驚く描写がされますが、その際の写真が怪獣の大きさが全く伝わらない画角から撮影されいてるんです。そもそも我々映画を観ている観客は、怪獣の大きさを前のシーンで散々見せられているので、大怪獣の大きさを既に知っているんですよね。そんな中で「うわー!大きい!」というわざとらしい演技見せられても困ります。笑えもしません。あのシーンは、それまで大怪獣の映像を伏せておいてバーンと大怪獣の大きさがわかる写真が表示されることで、大臣たちと同じく我々観客も驚けるようにした方が絶対に良かったです。
細かなところに突っ込むと、毎秒ツッコミいれることになりますので、とりあえずこの辺で。
多くの大人が参加する、東映と松竹の初の合作がこんな体たらくになってしまったのは非常に残念でなりません。いや、多くの人が参加した映画だからこそ、色んな人の思惑がぶつかり合って対消滅して、こんな虚無のような映画が出来上がってしまったんだと思います。
私も期待していたんですが、残念でむなしいです。以上です。